BTS、全米進出の舞台裏:2017年LA滞在記

史上初めてビルボード200で1位を獲得したK-popグループ、BTS。数々の賞を獲得する前、昨年11月にBTSが米ロサンゼルスに上陸した。ローリングストーンジャパン本誌に掲載された当時のアメリカ滞在時の記事をお届けする。

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手荷物受取所の少し手前で歓喜の叫びが聞こえ始めた。世界規模で史上最も有名になった韓国のポップ・グループとファンを遮る保安壁の上から、紫がかった灰色の髪の毛の先端がほんの少し見えたのである。耳をつんざく甲高い歓声の中、BTSの7人は穏やかな表情でロサンゼルス国際空港内を横切った。彼らの横には「イベントスタッフ」と記されたシャツを着た男たちが人間の輪を作ってBTSを囲み、ファンの接触を防いでいた。少年たちは微笑み、手を振り、数百人の10代の少女や若い女性の中をいつの間にか通り抜けて、黒いキャデラック・エスカレードに乗り込んだ。このクルマこそが、彼らをアメリカのメインストリームへと運ぶ最初の乗り物なのだ。

2017年11月半ば。BTSを信奉するファンの望みを聞いて、彼らは韓国からロサンゼルスにやってきた。彼らのファンはARMY(Adorable Representative MC for Youth: 若者を代表する愛らしいMC)と呼ばれる。彼らがここLAにいる理由は一連の人気テレビ番組に出演するためだ。空港から直行したのがジェームズ・コーデンの番組。翌日はジミー・キンメル、そしてエレン・デジェネレスにも会う。彼女はBTSの到着を1964年のザ・ビートルズのアメリカ上陸と比べる。しかし、BTSの一番の目的はアメリカン・ミュージック・アワード(AMA)でヒット曲「DNA」を歌い踊ることだ(その結果、彼らのパフォーマンスはGoogleのトレンディング・トピックとなり、Twitterのエンゲージメントでギネス記録を達成する)。

グループのリーダーであるRM(「ラップ・モンスター」の略)は、まだ23歳で見るからに意欲的だ。つむじ風のような今回の旅を「大きな波の上でサーフィンするようなもの」と言う。しかし、BTSがアメリカに上陸した翌日の午前9時、彼らは完全な仕事モードで姿を現す。AMAの代表が駐車場でのプロモ写真撮影のために到着したとき、私たちはリハーサル・スタジオにいた。大げさな仕草をする陽気なJ-HOPEは24歳のラップ担当で、かつてストリートダンスのチャンピオンだった。彼は両手を上げて歩きながら「こんにちは! AMA! ワオ!」と叫ぶ。他のメンバーは騒ぎもせずに徐々に姿を現し、駐車場のアスファルトの上でソウルから到着したスタイリスト・チームの手を借りて順番に着飾っていく。

この2017年という、今の時代に生きている僕たちはラッキー
メンバーの中で最も可愛らしい22歳のヴォーカル担当、JIMINはいたずら好きで、最近は女性が持つような手鏡を見ながらアゴのヒゲを剃ったりしている。彼はもともと現代舞踊のエリートだった。大きな瞳を持つVはヴォーカル担当で、22歳の芸術学校の生徒でもある。2016年に韓国の歴史ドラマでスクリーンデビューも飾った。今、彼は紫がかった灰色の髪を整えてもらっている。歯に挟まったものを爪楊枝で取ろうとしているのがラップ担当のSUGAで、彼もRM同様にアンダーグラウンドのラッパーとして活動を始めている。目にアイライナーを入れてもらっているのが20歳のリードヴォーカルのJUNG KOOK。若干15歳でBTSに加入した熱狂的なジャスティン・ビーバー信奉者だ。一方、ヴォーカル担当のJINは25歳の俳優志望。非常にハンサムな彼は街中を歩いているときにボーイズグループのキャスティング・エージェントにリクルートされた経歴を持つ。今、彼は無言で突風の中を歩いている。BTSの取り巻きの数は膨大だ。人数を数え始めた私も30人を超えたあたりから分からなくなったほどだ。複数のマネージャー、パブリシスト、振付師、マッサージ師、通訳、ヘアメイク、撮影スタッフ、怖い顔の警備員たち、何人ものイヤホンを付けた運転手たち……。

彼らの母国の韓国では、現時点でBTSの記録を破る者は皆無だ。ビデオ視聴者数、アルバムの予約販売数、チャートの順位など、彼ら自身が自らの記録を更新している状態である。そして、その現象は他の国でも見られつつある。直近の5枚目のミニアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』には、チェインスモーカーズのアンドリュー・タガートが作った曲が収録されており、73カ国のiTunesアルバム・チャートで1位になった。そして、スティーヴ・アオキがリミックスした楽曲「MIC Drop」で、K-POPグループとして初めてアメリカのメインストリームに分け入り、全米シングル・チャートでトップ40圏内をランクインした。

「この2017年という、今の時代に生きている僕たちはラッキーです」とRMが言う。英語での会話がスムーズにできる唯一のメンバーが彼だ。「僕たちがツイートすると30以上の言語に翻訳されます」。彼らの歌の歌詞はほぼ韓国語だが、YouTubeでは字幕がついており、Geniusなどのサイトで翻訳されている。これが世界規模での成功に一役買っているのだ。また、BTSの曲は憂鬱や不安のような問題に立ち向かう内容である。そして、女性の権利拡大や異なる環境で育った人を受け入れるというような、進歩的な社会の理想像を後押しする。加えて、他のアイドル(K-POPスターたちはこう呼ばれる)とは違う、商業ベースに乗らない道を歩く不安なども包み隠さない。

BTSのファンは、彼らの正直さや独立心を気に入っているのだ。これらの要素は近年西洋のポップ・ファンが求めているものでもある。さらにBTSは超近代的なプロダクションに抜け目なくメッセージを入れ込む(彼らは自分たちの手で作業を行うことが多い)。彼らが取り入れているプロダクションにはEDMのあらゆる手法、ラップやR&B寄りのポップスなどが盛り込まれている。メジャー・レイザー、ジャスティン・ビーバー、DNCE、ロジック、チェインスモーカーズ、ニック・ジョナスなどに近いポップスともいえる。とてもキャッチーで、さまざまな模様が縦横無尽に織り込まれた音楽を生み出しているのだ。

BTSはBeyond The Sceneの頭文字
写真撮影が終わると、次はAMAでのパフォーマンスのリハーサルだ。「DNA」のオープニングの口笛から彼らの意識は一つになり、手足は見ているこちらが興奮するほど正確にシンクロする。普段は大人しく見えるJINですら、激しい手の動きをきっちり合わせている。JUNG KOOKがバレエ風のターンをした後にJIMINがJUNG KOOKのお尻を掴んで少しふざけてみるも、今この瞬間の彼らは全員100%集中している。1時間後の午前10時40分、彼らは水を一気飲みし、メンバーの顔が大きくプリントされたうちわを持った女性スタッフにあおいでもらってクールダウンする。JINがイスの上で一瞬ウトウトするが、すぐにマッサージ師に起こされる。マッサージ師が彼の肩にヒジを入れてマッサージし始めると、JINは顔をしかめる。数分後、Vが痛みで悲痛な声を上げる。トレーナーが彼の頬の内側の口内炎を治療したのだ。後で見たら、RMが血の付いたティッシュを鼻につめて踊っていた。この鼻血は時差ボケと頑張りすぎの産物だ。午前中のスケジュールを終えた後に口にした早めの昼食が、冷めたハンバーガーとフライドポテトとは寂しいものだが、彼らは大して気にすることなく食べている。

BTSはBeyond The Sceneの頭文字だが、これはRMが考え出し、最終的にメンバーの投票で決めたという。このグループは音楽事務所、Big Hitエンターテインメントに所属している。Big Hitは作曲家のパン・シヒョクによって運営されているのだが、もともと彼は韓国の3大事務所の一つ、JYPエンターテインメントの共同創立者だった。しかし、JYPから独立したことでBig Hitには「小規模な事務所」というイメージが付きまとっている。BTSも寮での共同生活をしながらトレーニングを続けるというK-POP独自の厳しいシステムを経て誕生しているのだが、RMによるとBig Hitはアーティスティック面での自由度がかなり高いという。例えば、K-POPファンへのユニークなサービスとしてBTSはアルバムにまつわるストーリーを作っている。2016年の2枚目のアルバム『Wings』はヘルマン・ヘッセの教養小説『デミアン』がテーマになっていて、このコンセプトが歌詞、アート、ビデオに反映されている。これらのサブプロットがどのような形で具体化されるかは不明だが、村上春樹やアルベール・カミュなどの思慮に富んだ作家の作品を好んで読むRMなら実現可能だろう。

「自分たちらしい、BTS的コンテクストを作ろうとしています」とRMが言う。「もしかしたら昔の小説からインスピレーションを得るのはリスキーかもしれないけど、(『Wings』では)それが報われたと思います。ファンに向けたギフトボックスとして成功するのです。これはアメリカのアーティストがあまり行わないことですよね」と言って、彼は『スター・ウォーズ』になぞらえた。「自分たちの宇宙を作る最大の利点は拡張性にあります」と、メンバーの中で最も静かに周囲を観察しているSUGAが通訳を通して付け加える。「自分たちの日常や興味から生まれるから好きなだけ広げられるし、自分たちにとっても馴染みのある題材です。だからこそ、僕たちが伝えるストーリーにも、僕たちが作る音楽にも多様性が生まれるのです」

彼らに「韓国の政治についても自由に歌詞を書けるのか?」と尋ねてみた。微かにそういう傾向を持った曲を書いているとRMが言うが、横でSUGAがこの題材は「危険をはらんでいる」と注意を促す。「文字通りの意味ではないのですが、感受性が十分に成熟していない若い人たちに誤解されるリスクがあります」。彼は「衝突を駆り立てる」よりも「理解を促す」ことに意識を向けたいという。このインタビュー中、他のメンバーはARMYへの感謝と、さまざまな世代にアピールするチャンスを求めている以外は一言も喋らなかった。J-HOPEの「僕たちは誰と一緒に仕事をしても光栄だと思うんです」という一言が彼らの本心を言い表している。

このバンドのミッションは記録を破ることではなくて、個性を売り出すことだとRMが言う。これは本国ではあまり推奨されない。「特に韓国では常に人としての基準があります。結婚するとか、良い大学に行くとか」。彼に自分たちのメッセージをどうやって伝えるつもりなのかと聞いてみた。RMは笑顔でこう答えた。「いい音楽と病み付きになるパフォーマンスを通してです」

音楽を聴くときに言葉は壁にならない
カリフォルニア、シカゴ、ニュージャージーでのアリーナ公演がソールドアウトになったことを受け、BTSは2018年に大掛かりなアメリカ・ツアーを計画している。彼らは前例のないことをしているのだ。PSYとは異なり、彼らの成功のきっかけは物珍しさが受けたヒット曲ではない。彼らの曲はアメリカのチャートをゆっくりと上昇し、今では順位が落ちる気配がない。過去に英語のアルバムを作る考えを却下したとは言え、RMは2017年にフォール・アウト・ボーイのリミックス、ワーレイとのコラボで英語のライムをドロップした。

午後1時半になり、キンメルの番組への出演準備をする時間だ。私はダンス・スタジオからホール、そして楽屋の近くまでBTSの後ろをついて行った。折りたたみ式テーブルの上には所狭しとシルバーのリング、派手なネックレス、耳たぶからぶら下がるタイプのイヤリングが置いてある。ここから一つ選ぶのだ。床に置いてあるジップロック付きのビニール袋には、メンバーが使用する同じ種類のPUMAのサンダルがたくさん入っている。ヘアを直して服装を整えると、彼らは無言で4台のエスカレードに分乗した。

ハリウッド・ブルーバードを通って小道に入ると、キンメルの野外撮影所と野外ステージに到着した。そこには1000人を超える熱狂的なBTSファンがいた。私たちのクルマが着いた途端に歓声が爆発した。彼らはそこで何時間も待っていたのだ。キンメルの音楽プロデューサーであるマック・バーラスが後で教えてくれたのだが、5人のティーンエイジャーが、この撮影所前の通りで、寝袋で寝ながら二晩過ごしたらしい。

出演者の控室に入ると、彼らはやっと一息つくことができた。SUGAとRMはバナナを食べる。JINはNintendo Switchで遊ぶ。JUNG KOOKとJ-HOPEはソファの上で眠そうに互いに身体を預け合っている。Vは床に横になりマッサージ師のアシスタントに首筋を調整してもらってからソファに座って「カープール・カラオケ」をストリーミングでチェックする。午後4時、プロデューサーがスキットに出演するARMYの母親2人を連れてくる。彼女たちはまだ列に並んでいる娘たちにFaceTimeで楽屋にいることを告げた。娘たちが楽屋に来たとき、彼女たちと少し話してみた。2人ともYouTubeでBTSを見つけたと言う。24歳のアドリアナは韓国語を「ゆっくりと、でも確実に」独学で覚えている。メンバーの声で発した言葉を理解したいのだ。18歳のローザは「音楽を聴くときに言葉は壁にならない」と強調する。

午後6時20分、BTSがステージに向かう。ステージ裏に聞こえてくる客席の歓声は、ジェットコースターに乗って騒いでいるかのようにテンションが高い。白髪交じりのスタッフが私の横を通りながら、おどけた笑顔で「正気じゃない」とつぶやいた。彼らが全6曲のセットを圧倒的なパワーでパフォーマンスするのを舞台袖で見ているうちに涙が出てきた。「Where Are Ü Now」に似ている「Save Me」では、ファンがK-POPではお馴染みのファンチャント(ファンによる合いの手)を寸分違わずに入れてくる。メンバーそれぞれの本名を完璧な順番とリズムで歌の間に挟むのだ。私の耳に音楽はほぼ聴こえない。そのため、パフォーマンスがもうすぐ終わるという段階で初めて、BTSがバックアップのヴォーカル・トラックを使っていないことを知る。アメリカやイギリスのボーイズグループは普通使う。つまり、BTSは常に激しく踊りながら、同時に歌い、ラップするのである。

午後7時過ぎにパフォーマンスが終わった。ヘトヘトのJ-HOPEがアスファルトの地面に倒れ込む。大きな呼吸で彼の胸が上下に大きく揺れ、目は見開いている。30秒後、彼は立ち上がり、他のメンバーに追いつき、控室に続く廊下の向こうに消えて行った。そして、彼が最後の角を曲がったとき、「キャー!  J-HOPEが私を見た!」という大きな叫び声が上がった。

本記事は「Rolling Stone Japan vol.02」に掲載。
未公開カットなど多数掲載しているので是非チェックして欲しい。

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