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zoom RSS 山登りで遭難→救助されたら、一体いくら支払わなければならないか

<<   作成日時 : 2018/08/02 13:00   >>

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 あぁ、やっちまった……空が青いなぁ。地面に倒れながら、ふと自分の左足を見ると、膝が内側に倒れているのに、登山靴の先は真逆の左外を向いていた。

 登山と駅伝をこよなく愛する編集者・花房麗子。GWにオーストラリア・エアーズロックを訪れたものの、下山後に自転車で大転倒、左足を骨折した。海外で怪我をするととんでもなくお金がかかる体験をしてから3ヵ月――ギプスは外れたものの、まだまともに歩けず、登山復活の目処は立っていない。

 本来ならば山登りシーズンどまん中の夏。体がうずき、せめて日本の山登り事情を取材してみることにした。するとそこには、驚きの「山岳遭難費用」の現実があった――。

平成29年の山岳遭難者は過去最多
 警察庁の統計「平成29年における山岳遭難の概況」によると、昨年(平成29年)の山岳遭難の発生件数は2583件、遭難者3111人。件数も遭難者数も統計の残る昭和36年以降で最多という。今年に入っても、山の事故がたびたびニュースになっている。

 今までに私も、山小屋から大量のザイルを体に巻いて早足で出ていく救助隊員の姿や、目の前の谷筋でホバリングするヘリの中に吊り下げられた担架が収容されていく様子を見たことがある。ともに歩いているガイドの方から、落石が直撃して息ができなくなり危うく死にかけた話を聞いたりもした。

 高尾山に始まって、筑波山、丹沢、そしてアルプスの山々――次第に百名山でも難しい山にチャレンジするようになると、さすがに「自分だけは大丈夫」、であるはずはないことがなんとなくわかってくる。そこで山岳保険は年間カバーの保険に入るようにしていた。

 だが、その実際の使われ方は、全然知らなかった。

 今年3月21日、もう桜も咲きかけていた東京で雪が降ったことがあった。前日から「明日の春分の日は、珍しく東京は雪になるでしょう」と予報されていたが、SNSの呼びかけで集まった13人が悪天候の奥多摩山中で道に迷い遭難。翌22日に幸い全員が無事に救助され、うち骨盤骨折した中国人女性を含む7人がヘリで救助された。

 このことを報じたニュース番組で、ヘリがホバリングする様子を見ながら、私は「あぁ、遭難したのは中国人グループだったのか。じゃあ保険に入ってないかもなぁ。救助ヘリの代金は高いんだろうな」とぼんやり思っていたのだ。

 ここで皆さんに質問したい。

 遭難者たちは、救出された時、いくら支払っているかご存じだろうか? 
 ――答えは「0円」。たとえ救助ヘリが飛んでもタダなのだ。

 別に遭難者が保険に入っていなかった中国人だったからではない。山岳保険に入っているあなたでも私でも同じことだ。

ヘリの代金は「税金」だった
 日本では、救助要請の一報が入ったら、救助活動はまず遭難場所の位置する県の警察(山岳警備隊)もしくは消防(山岳救助隊)が行うことになっている。何日も何週間も大人数で捜索が続けられる映像が流れることがあるが、それは珍しいことだからニュースになるのであって、救助の多くが当日、もしくは翌日に完了する。

 岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会の『山岳白書 平成29年中の北アルプス登山者と遭難事故のまとめ』によれば、遭難事故一件あたりの平均出動日数は1.1日、平均出動人員は9.7人(警備隊8.7人、救助隊1.0人)だ。

 ちなみに昨年の出動件数を県別に見てみよう。上から順に100件超の地域を並べてみた。

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長野県292件(遭難者数327人、うち死者60人) 
北海道236件(遭難者数276人、うち死者25人)
山梨県161件(遭難者数180人、うち死者30人)
東京都155件(遭難者数187人、うち死者12人) 
富山県131件(遭難者数144人、うち死者16人)
静岡県128件(遭難者137人、うち死者7人)
神奈川県123件(遭難者149人、うち死者6人) 
新潟県108件(遭難者154人、うち死者16人)
群馬県104件(遭難者118人、うち死者9人)
兵庫県100件(遭難者125人、うち死者13人)

(前出・警察庁統計「平成29年における山岳遭難の概況」による)
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 全国トップの出動件数である長野県の場合は、県内で起こる山岳遭難の8割でヘリコプターが出動している。そのほぼすべてに長野県警が対応するし、もし対応できない場合は、近隣の県警と連携をとる。たとえば昨年2月、西穂高岳に登ったパーティが岐阜県側に滑落し、110番通報がなされた。ところが折悪しく岐阜県警ヘリがオーバーホール中、防災ヘリは救助器具が不調だったため、長野県警航空隊に応援が要請されて、無事救出作業が完了したという。

 山岳警備・救助隊に余裕があるということでは全然ない。むしろ、7〜8月の山登りハイシーズン、山岳救助隊は多忙を極める。それでも彼らは外部の手を借りるということはほとんどない。

 これが何を意味しているか。つまり、山岳保険は保険会社の負担が限りなく少なく、ほぼ丸儲けに近いということだ。

名作山岳漫画の感動シーンはありえない?
 その話を聞いて、私はこの場面を思い出した。

 重傷を負って動けず朦朧とする遭難者。そこに陽気な顔の救助者・島崎三歩が現れて「よくがんばった!」と声をかける。日本中どの山小屋に行っても絶対に置いてある、山岳漫画のベストセラー『岳(がく)』のお決まりフレーズだ。

 複数遭難や天候悪化で自力だけでは遭難者を下ろせないとき、三歩はしばしば民間救助サービス会社「燕(つばくろ)レスキュー」の牧さんにヘリ出動を頼む。絶体絶命のとき、牧さんのヘリコプターが強風をついて出現すると、思わず読者はジーンときてしまう。

 だが今の日本では、牧さんが助けに来ることはまずない、ということなのだろうか……。

 増えていく一方の山の事故。その救助活動を支えているのは税金だ。それも、主に首都圏から来て事故を起こすハイカーの救助費用を支払うのは、その山のある自治体市民、特に多いのが長野県民、というようないびつな形なのだ。

山岳保険会社が長野県に寄付
 こうした山岳保険の不思議な現状を教えてくれたのは、じつは他ならぬ保険会社の方だった。山岳保険専門の会社「やまきふ共済会」(本社・東京都日本橋https://www.yamakifu.or.jp/) 代表理事の井関純二さんだ。

 自身も登山愛好家である井関さんは、保険会社の立場から山岳救助の人々と知り合い、現状の山岳救助システムに対して何か方策がないかと考えて同社を立ち上げた。「やまきふ共済会」は、会員が保険料として支払う年会費のうち一部を長野県警など山岳地域の行政機関へ寄付することで、山岳救助の一助を担う。

この試みはすでに5年目に入っており、「やまきふ」の方針に賛同した「ヤマレコ」(登山記録データベース)、「ヤマテン」(山の天気予報サービス)の2社とともに、今年3月にも長野県警に3社計170万円を寄付。7月26日にも「やまきふ」単独で富山県に25万円を寄付している。

 しかし、税金でヘリの救助費用が払われるのであれば、山岳保険に入る必要はないのでは? と思う人も出てくるかもしれない。それは大きな間違いだ。

 「救助費用のために支出されないのだとしたら、山岳保険は何に支払われるのか、というと、救助後の入院などを含む治療費やご家族が駆けつけるための旅費がメインです。そして、これはとても辛いことですが、山で発見されないままになった方の捜索費用です。山岳警備隊や救助隊は、一定日数が過ぎた場合はそこで捜索を打ち切りますので、そこからの捜索は民間の手になるんです。少ないケースですが、ゼロではありません」(井関さん)

 もうひとつ気をつけなければいけないことがある。

 山で起きるのは怪我だけではない。山を歩いている時に、突然、心臓が苦しくなったり、意識を失ったりといった「病気」で倒れる人が増えているのだ。これは「老齢ハイカー」が増えていることと関係している。前出の遭難統計で最多年代は60代の741人(23.8%)、次が70代の669人(21.5%)。特に70代は前年の565人から激増している。

 こうした時、多くの人が入っている「医療保険」では、登山中に発病して遭難しても、遭難費用は払ってくれない。「山岳保険」には登山中の病気をカバーしている保険もあり、もしあなたが定年を過ぎているハイカーならば、万一のことも考え、こちらへの加入を検討したほうがよいだろう。

ただし、山岳保険はあくまでも遭難に伴う費用を補償するものなので、登山中の病気(例えば心筋梗塞など)の医療費は支払われない。ただ病気が原因の遭難費用は補償される場合とそうでない場合がある、ということだ。山小屋に「歩荷(ぼっか)」で食糧や毛布などすべての物資を荷揚げしたのは遠い昔。日本アルプスのような険峻なところになればなるほど、今ではメジャーな山小屋の物資輸送は、ほとんどがヘリによって行われている。民間ヘリはこうしたところで存在感を発揮しているが、悪天候や狭量な地形での活動など、二次災害のリスクも高いレスキューヘリは、民間がビジネスとして継続していくのは難しいのだろう。ただ、ヘリの出番はほぼなくとも、前出の『岳』で三歩が行っているような地上での民間救助隊(遭難対策協議会=遭対協)が出動することは今もあるという。

ヘリコプター料金1回100万円
 私自身、冒頭にお伝えしたように3ヵ月前、事故に遭った。しかも日本ではなく、オーストラリアでのことだった。事故の顛末は現代ビジネスの別稿(「女編集者花房麗子、オーストラリアで骨を折る」)に詳しいが、私はエアーズロックの麓から救急車で運ばれ、手の施しようがないといわれてドクターヘリで近隣の小都市アリススプリングスまで緊急搬送された。

 このドクターヘリはタダではない。オーストラリアは日本と同じく国民皆保険制度をとっているが、ドクターヘリの費用などは、プライベート保険による支払いが優先され、プライベート保険に入れない貧困層などの場合に国民保険による支払いが発動されるのだという。そして外国人の私はもちろん国民保険も入っていないので自腹である。

 パイロットと付き添いナース2名からなるヘリに乗り込むとき、記念写真を撮ってほしいという私のリクエストに快く応じてくれたナースは「どうせ自分で高い料金を払うんですもの、せめて空からの景色を堪能してね」と、笑いながら励ましてくれた。後日、「高い料金」が本当に1万ドル(100万円)近くかかるということを知って仰天した。

 こうした料金を、民間の保険が賄ってくれるわけだ。ちなみに私は愚かにも海外旅行保険に加入しておらず、総額500万円もの救助・治療費を自腹で払わなければならないのかと青ざめた。結果、一枚のクレジットカード保険によって救われ、首の皮がつながった(こちらの詳細は過去の記事に詳しい)。海外旅行には、しかも登山のように危険を伴うようならなおさら、必ず保険に入らなければならないと反省している。

 不慮の事故だとしても、登山は自らの意思で行う行為だ。事故に遭ったときの費用を、税金で支払われるのが当然とは思ってはいけない。例えば県警に出動してもらったら、その費用はオーストラリアと同様にまずは山岳保険から支払う、ということはできないのだろうか。

 山岳保険の普及は、山に入るということに対して責任を持つ、という意識促進のためにも重要だ。山の遭難が起こるたび、ネットなどで「勝手に危ないところに行って迷惑だ」という論議が巻き起こる。登山が迷惑な、肩身の狭いレジャーだと思われないためにも、ぜひ法整備を検討してほしい。

 そして私も、国内外問わず、危険を伴うレジャーに行く時に保険に入ることは忘れないようにしようと改めて思う。

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