【あの時・ビートルズ台風到来】(1)立ち上がることも許されなかった日本初公演

英国の人気ロックバンド「ビートルズ」は1966年6月29日、初めて日本の地を踏んだ。翌30日から東京・北の丸公園の日本武道館でコンサートを開催。3日間計5公演で約5万人を動員した。離日する7月3日までの滞在時間は102時間。世界中で人気を集めるアイドルの初来日に日本中の若者が熱狂し、警視庁は厳戒態勢を敷いた。その間の騒乱はまさに「ビートルズ台風到来」という言葉がぴったりだった。

 日本武道館は絶叫に包まれた。ビートルズのメンバーがステージに登場すると、約1万人の観客のボルテージは最高潮に達した。「ポール!」「ジョン!」。泣き崩れる女性が続出。失神するものもいた。

 6月30日午後7時35分。ビートルズの日本初公演が幕を開けた。前年(65年)6月に日本のメディアとして初めてビートルズを独占取材した音楽誌「ミュージック・ライフ」(98年休刊)の編集長、星加ルミ子も興奮を抑えきれなかった。彼らの生のステージを見るのは初めて。ステージ真正面のスタンド席最前列に陣取った。近くには作家の三島由紀夫ら著名人の姿もあった。

 「観客は85%が若い女性。天井が吹き飛ぶんじゃないかと思うぐらいの歓声でした」。アリーナは安全上の理由で客席がなく、ガランとしている。通路の至るところに警備員が配置され、ファンは立ち上がることも許されなかった。異様な光景だった。取材陣も公演を主催する一部のメディアしか撮影は許されなかった。「ウチのカメラマンは隠し撮りしてました。各社やっていましたよ。その辺は大目に見られていたと思います」

 騒乱の中、「Rock And Roll Music」で演奏がスタート。7曲目で「Yesterday」がかかると、どこからともなく声が上がった。「シーッ! 静かに聴こうよ」。それまでの騒ぎがウソのように、観客は歌に耳を傾けた。「水を打ったように静まりかえりました。ファンはその日、初めて顔を合わせたわけですが、連帯感がありましたね」。メンバーは「日本のファンはなんて行儀がいいんだ」と目を丸くした。

 会場周辺はものものしい雰囲気だった。機動隊の装甲車やパトカーが取り囲み、1700人余りの警官が警戒にあたった。大演習でも始まりそうなムードだった。救護所も設営されたが、運び込まれたのは、場内で販売されていたアイスクリームを食べ過ぎて腹痛を起こした少女など4人だけだった。大きな混乱はなく、主催者は胸をなで下ろした。

 コンサートはわずか35分で終了した。全11曲。海外公演と同様だった。「とにかく短かったな、というのが最初の印象です」と星加。周囲を見渡すと、ファンは体を震わせ、泣きじゃくっていた。「ポールやジョンと同じ空気を吸ったということに感激していて、みんな立ち上がれなかったです」。そんな熱狂的なファンの姿は、メンバーが宿泊するホテルにもあった。=敬称略=

 ◆星加 ルミ子(ほしか・るみこ)1940年、北海道生まれ。76歳。東洋女子短大英文科を卒業後、新興楽譜出版社(現・シンコーミュージック・エンタテイメント)に入社。ポピュラー音楽専門誌「ミュージック・ライフ」編集部に配属され、65年に編集長に就任。75年に退社後はフリーの音楽評論家として活躍。最新著書に「私が会ったビートルズとロック・スター」。

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