「大阪のおばちゃん」と「クレーム対応」の意外な共通点

100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、続々と異例の大重版が決まっている。
本記事では、クレームを回避するための「基本動作」について特別掲載する。(構成:今野良介)

● 「挨拶」ひとつで回避できるクレームがある

 挨拶が「顧客満足」につながることは広く知られていますが、「危機管理」の観点からも重要であることは、あまり一般に理解されていません。

 「声がけ」が防犯に役立つことは、警察官や警備関係者、保安員の間での常識です。万引きや窃盗犯などは、声をかけられることで「ヤバい、見られた!」と怖じ気づき、その場から立ち去るのが常です。

 同様に、「いらっしゃいませ」「こんにちは」などの一言が、イライラを抱えるモンスター予備軍の暴走を食い止めます。犯罪者は「見られる」ことを嫌いますが、お客様は「見られない」ことに腹を立てているかもしれないのです。

 私自身、ひとりの客としてイラッとした経験があります。

 地元の携帯電話ショップに足を運んだときのことです。平日の午前11時、店内にいる3人のスタッフは全員がカウンターに座って、パソコン画面を見ながらデータを打ち込んだり、なにやら手作業をしたりしています。私のほかに客はいませんでしたが、誰も私の存在に気づいていません。しかたがないので、私から声をかけました。

 「ちょっと、いいですか?」

 若い女性スタッフは、チラッと目を向けて、「はぁ」とひと言。

 私は「その言い方は失礼だろ!」とカチンときましたが、自分の娘のような年齢の女性にクレームをつけるのも大人げないので、「もういいです」と言い残して店を出ました。

 従業員の挨拶がなかったばかりに、ひとりの見込み客を逃しただけでなく、お客(筆者)をモンスターに変身させかねなかったのです。

● お客様のイライラを鎮める「ひと言」

 挨拶や声がけが大切なのは、商業施設に限ったことではありません。

 たとえば、ある病院の待合室で、長時間待たされた患者がイライラを募らせています。待合室に新聞や雑誌も備えつけられていますが、ペラペラとページをめくったあと、すぐに放り出します。じっくり記事を読めるほどの心の余裕がないのです。

 あなたにも、そんな経験はないでしょうか?

 こんなとき、看護師や受付の職員が「お待たせしてすみません。順番にご案内しておりますので、もうしばらくお待ちください」とひと声かけるだけで、患者の苛立ちは、たとえ少しでもやわらぐはずです。「あと3人の患者さんの診察が終わったら、すぐにお呼びしますね」などと、待ち時間を詳しく伝えられればベストでしょう。

 「多くの人を診ているのだから、いちいち待合室の患者にかまっていられませんよ」と弁解する病院関係者もいますが、そこには「患者を診てやっている」という思い上がりが透けて見えると私は感じます。

 そもそも、挨拶は、視界を広げて、相手に「目配り」「気配り」することです。せっかく挨拶をしても、それが形式的なものであると相手に伝わってしまっては、意味がありません。

 たとえば、少数の従業員で切り盛りしているコンビニでは、レジで接客をするだけで手一杯の状態になっていることが、よくあります。

 「いらっしゃいませ。(ピッピッピ)1000円お預かりします。ありがとうございました」

 お客様への挨拶は接客マニュアルに沿った型通り。視線は常に手元のレジ袋に注がれています。これでは、クレームや犯罪に対する抑止効果は期待できません。

 本来、「いらっしゃいませ」の挨拶は、レジではなく来店したお客様に向けられるべきものです。店員はレジ回りだけでなく、出入口への目配りを怠ってはいけません。

 レジを打ちながらでも、横目でチラッと出入口を見て挨拶します。レジの前で長時間待たされるお客様からは苦情も出るでしょうが、別の客に挨拶したからといって、文句を言う人はいないでしょう。 

● ヘソを向けて目を見て挨拶する

 「アメちゃん食べへんか?」「あんた、どこ行くの?」

 大阪のおばちゃんは、かばんの中に飴を常備し、初対面でも誰彼なしに声をかけたりします。

 じつは、彼女たちは声がけの天才であり、危機管理の達人です。

 私は、ヒョウ柄をまとったおばちゃんが、飴をシェアすることで相手との関係性を縮めている場面を何度も目にしています。安価で携帯性に優れた飴を、コミュニケーションツールとして上手に活用しているのです。

 一説では、「騒がしい子どもに飴を与えると静かになる」という理由で「飴ちゃん」が普及し始めたともいわれています。「クレーマー予備軍」に対して丁寧な挨拶を呼びかけるのは、道理にかなった危機管理なのです。

 挨拶では、相手と目を合わせることが大きなポイントです。ただ、目線の合わせ方は意外に難しいものです。相手の目をにらみつけるわけにはいかず、かといって目をそらすこともできません。

 そこで私は、相手の目元から両肩にかけて三角形を描き、3つの頂点に時間差をつけて焦点を合わせるようにしています。また、男性のネクタイの結び目のあたりを見つめると、自然な視線になるともいわれています。

 最低限押さえておきたいのは、相手にヘソを向けて話すことです。そうすれば、少なくとも、相手と真剣に向き合っていることは示せます。

 『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。

 ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。

 (参考記事)

 「半殺しだよ」→「怖いです」
「SNSで拡散するぞ」→「困りましたね」
究極のクレーム対応“K言葉”の活用術

援川聡(えんかわ・さとる)
(株)エンゴシステム代表取締役
1956年広島県生まれ。79年大阪府警察官を拝命。95年に大手流通業(株)マイカルに就職。元刑事の経験を生かし、トラブルやハードクレームの対応にあたる。適切で確実な解決術は高い評価を受け、業界団体の講師を務めるなど悪質クレーム処理の専門家として認知される。2002年、「困難なクレームを解決し、企業の危機管理を援護する」をモットーに(株)エンゴシステムを設立。豊富な現場経験と独自のノウハウをもとにリアルタイムで企業、医療機関、役所等をサポート。常に十数社と顧問契約を結び、これまでアドバイスした件数は5000を超える。講演・セミナー講師を年間100回以上務めるほか、新聞・雑誌への寄稿、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」、フジテレビ系「プライムニュースイブニング」などテレビ出演も多数。
著書に『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』、『クレーム処理のプロが教える 断る技術』(幻冬舎)、『超プロがついに明かす クレーマーの急所はここだ!どんな問題もすべて解決!』(大和出版)などがある。

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