祭りの夜はやっぱり…大センセイの流儀

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回は「酔って候」。

*  *  *
 過日、大センセイご一家は、阿波踊りを見るために高円寺を訪れた。

 中央線を降りると、高円寺駅は大混雑。何か途方もないものに向かって興奮が膨れ上がっていくような、騒然とした空気である。

 昭和君が押し潰されないように抱き上げてやっとの思いで改札を出ると、大勢の警察官と警備員が出て交通規制をかけている。

「ただいまのお時間、右方向にしか進めません」

 スピーカーが大音量で叫ぶ。祭りに規制なんてと思いつつ、仕方なく右方向に進むもののいつまでたっても阿波踊りに遭遇できない。南向きにさんざん歩いてもうじき青梅街道という辺りで、突如、阿波踊り会場に押し出された。

 昭和君を肩車して、ある「連(れん)」を探すため、今度はひたすら北上する。

 実を言うと大センセイ、徳島の「苔作」という連が大好きなのである。

 阿波踊りの踊り手は男踊りと女踊りに分かれており、伝統的な女踊りは、編笠を目深にかぶった女性が俯き加減に踊るものと決まっている。顔が見えそうで見えないところが、

「きっと清楚で気品のある美人なんだろうな」

 という想像をかき立てる。

 それはそれで風情があっていいのだが、大センセイご贔屓の苔作は違うのだ。前衛なんである。アバンギャルドなんである。

 苔作の女踊りは、手も脚も極めて複雑な、立体的な動きをする。伝統的な女踊りが二次元だとすれば、苔作の女踊りは3次元。清楚よりは華麗、気品よりは妖艶、そしてどこかにしたたかな野性味を秘めている。

 苔作の鳴り物もすごい。サンバに似た独特のリズムで徐々に加速していく大太鼓の響きは、聴く者の肺と心臓を直撃する。その重低音に乗って女踊りがひらひらと奔放な蝶のごとく舞い狂う様は、一度見たら絶対に忘れることができない。

人混みをかき分けて北上することしばし。奇跡的に、中央演舞場に踊り込む瞬間の苔作に遭遇することができた。鳴り物が加速していき、女踊りが乱舞し、男踊りが跳ねまわり、すべてが頂点に達した瞬間、大センセイも妻太郎も何かがぶっ飛んじゃって、思わず、

「コケサク、サイコー!」

 と絶叫していた。

 後はもう、お祭り騒ぎの巷に乱入である。まずは露店のネパール料理屋のぬるいビールで乾杯し、焼き鳥モドキを食う。

「これ何の肉?」

「ネパールの肉。ウマいネ。ネパールの肉、サイコー!」

 親の財布の紐が緩んだのをいいことに、昭和君はここぞとばかり好物の唐揚げを食べまくり、宝引きをやりまくり、水色のかき氷でTシャツを汚しまくる。

 妻太郎は妻太郎で、イケメンのお兄さんが注いでくれた白ワインを立ったままグビグビと飲み干して、

「白の次は何にすっかな」

 と目が据わっている。

 シャツの胸をはだけ、高円寺の長い商店街を3人で流しながら、ビール、チューハイ、ハイボール、唐揚げ、焼き鳥、日本酒……。

 夜が更けるにつれて、露店のお兄さんたちもわけがわからなくなっていく。

「フランクフルトいかがっすかー。1本 200円、2本でも200円、3本でも200えーん」

 やがて瞳の中で街灯がユラユラ揺れ始め、頭の中では苔作の大太鼓が鼓動のごとく響き出し、狂気と正気の境界をさまよううちに、大センセイ、自分にとって大事なものが何なのか、ハッキリと見えた気がした。

 祭りの夜は、とことん飲むのがいい。

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