貧困・ホームレス化に直面する非正規雇用 実情と「対処法」を解説する

90年代以降増加してきた非正規雇用は、いまや5460万人、率にして37.3%となった(2017年「労働力調査」)。

 かつて非正規雇用の中心は「家計補助」的な主婦パートや学生アルバイトであったが、もはやパートやアルバイトなどで生活を維持する「家計自立型」が当たり前のものとなった。

 しかし、彼らの大半は、賃金が低いままであり、働いていても貧困状態にある「ワーキングプア」の状況に置かれている。非正規雇用の貧困状態は、「働いている」にもかからず、彼らの生存を脅かす水準にさえ迫っているのだ。

もっとも危機的なのは、住居の喪失と常に隣り合わせの生活をしなければならないということだ。

 2008年秋のリーマンショック期には非正規雇用が大量に解雇され、多数のホームレスを生み出したことが知られているが、非正規雇用はその後も拡大し続けており、近年は「中年化」が進んでいる。

非正規雇用の多くが、親世帯にも頼ることができない、いわゆる「中年フリーター」となることで問題の深刻さが増している。

 そこで今回は、非正規雇用の実情と住居喪失の具体的な事例を紹介し、最後に住居を喪失しないために行使できる「権利」についても解説していく。

生存ギリギリの賃金しかもらえない非正規雇用
 まず、非正規雇用労働者の実情を概観していこう。

 最新(平成29年)の賃金構造基本統計調査によれば、正社員の賃金321.6万円に対し、非正規の賃金は男女計平均で210.6万円である(ともにフルタイム)。非正規女性に限ると189.7万円とかなり下がる。月当たりに直すと、男女計の平均が17.6万円である。なお、ここでの「賃金」とは、税金などが控除される前の金額である。

 しかも、年齢が上がっても、その数値は上がることはない。

非正規雇用の拡大と軌を一にするように、貯蓄ゼロ世帯も増加している。日銀の外郭団体である「金融広報中央委員会」が実施している「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、2017年に金融資産のない世帯は、単身世帯で46.4%、2人以上世帯で31.2%に上る。

 単身世帯の統計が開始された2007年と比較すると、いずれの年代と世帯類型においても金融資産のない世帯が増加している。特に、20代単身世帯での増加が顕著である。次いで、子育て世帯と思われる30代の2人以上世帯や、40~50代での増加も大きい。

 60~70代以上の高齢者世帯よりも、50代以下の現役世代において、金融資産のない世帯が多いことも特徴だ。


生活保護との比較
 では、非正規雇用の賃金水準は、どのくらい「貧困」なのだろうか。これを考えるために、生活保護の水準との比較を行ってみよう。

 生活保護の基準である最低生活費は、日本における「最低生活費」を唯一規定しており、それを下回ると最低限の必要を満たすことができない貧困状態であると言える。

 ここで比較に用いるのは、「全国消費実態調査(2014年)」の非正規・単身世帯の1ヶ月あたりの収支のデータと、「被保護者調査(2016年)」の単身世帯の最低生活費のデータである。

 まず、非正規雇用の消費支出のうち住居費と、生活保護の住宅扶助を比較してみよう(いずれも単身世帯で月単位の額)。生活保護の住宅扶助は(各地域の基準額内の家賃であれば)実費を支給されているため、基本的には支出と同額になる。

そうすると、図3に示したように、実は非正規雇用よりも生活保護の住居費の方が高い。非正規雇用で働く人の方が支出を切り詰めるために、生活保護と同じか安い物件に住んでいると考えられる。その分、居住環境がより悪い可能性もあるだろう。

 また、家計支出の全体を見ると、非正規雇用の生活が生活保護に接近していることがはっきりとわかる。生活保護には、一般的な支出を支える「生活扶助」と住居費を支える「住居費」があるが、実際には医療費は無料で、税・社会保険料も発生しない。

 単身者の単純な生活扶助の額は平均7万3000円程度である。

そして、図4の棒グラフの青い部分の通り、非正規雇用の消費支出のうち、住居費と医療費を差し引いた額(生活保護における生活扶助)を比較すると、両者の差額は3~5万円と極めて少ない。

 しかも、生活保護では、水道基本料の免除、就職活動や通院のための交通費などが実費で支給されるため、さらに差額は縮まる。

 さらに、非正規雇用の可処分所得から消費支出を差し引いて月単位の残高を算出すると、図4の通りとなった。特に女性のパート・アルバイトに至っては1709円しかない。文字通りカツカツである。その他についても2~3万円は手元に残っているが、住居の更新料などの急な出費があればすぐに消費されてしまうだろう。

 それに対して、生活保護では更新料も各地域の基準額内であれば実費が支給される。

 以上のように、非正規雇用と生活保護の生活水準はそれほど変わらず、住居に限定していえば、生活保護の方が高水準とさえ言える。しかも、住居の更新料など急な出費については、生活保護では制度的に保障されている部分もあるのに対し、非正規雇用は少ない貯蓄で対応しなければならないという厳しい状況に置かれているのだ。

 すでに述べたように、生活保護の基準は最低限度の生活を支えるものであり、決してこちらが「高すぎる」のではない。むしろ、非正規雇用の賃金水準が、あまりにも労働者の「生活」を無視し、「貧困で当然」と言わんばかりの低水準になっていることが問題なのである。

 非正規雇用の低すぎる処遇は国や自治体などの職員も同様であり、「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。非正規雇用の低すぎる労働条件は日本社会全体で「常識化」しており、国家ぐるみでさえある。

 極めて異常な状態だと言わざるを得ない。

住居問題に発展した相談事例
 すでに述べたように、非正規雇用では非常に低い賃金しか払われず、生活保護受給世帯と生活水準はほとんど変わらない。その結果、貯蓄もまともにできないため、常に生存ギリギリの綱渡り状態となってしまうのである。

 実際に、NPO法人POSSEに寄せられた労働・生活相談から、非正規雇用の労働問題が、住居問題にまで発展している事例を紹介したい。

働いていても賃金が低すぎて家賃が払えない
 非正規雇用では、働き続けていても常に住居喪失の懸念を抱えている。

 まず、賃金が低すぎるため、生活を維持するための残業が前提となっていることが多々ある。また、もともと低賃金のところに、シフトが入らないと生活ができなくなってしまうといった労働相談も目立つ。

 つまり、働き続けることができていても、給与の水準が低すぎること、そして、それが不安定に変動するということから、生活に見通しが立たないのである。具体的には次のようなケースだ。

派遣社員として港湾での事務と荷役の仕事をしている27歳男性は、モデル給与で総支給22万円、手取り19万円を提示されていたが、実際には手取り16万円弱しかもらえていない。その直接の原因は、数ヶ月前から残業が禁止され、残業代が入らなくなったからだ。そのため、家賃の支払いや車の維持が苦しくなってしまった。

契約社員として警備員の仕事をしている47歳女性。勤務形態は事実上の日雇いに近く、前日ギリギリまで仕事の有無が確定しない。仕事が入らなくても何の保証もない状況だった。案の定、繁忙期を過ぎると仕事に穴が開くのが当たり前になり、給料を前借りすることが続くようになった。結局、家賃を滞納してしまった。

失業をきっかけに家賃支払いができなくなる
 次に、失業をきっかけに家賃支払いができなくなるケースだ。こちらは想像に難くないだろう。非正規雇用は賃金水準が低過ぎるために貯蓄ができず、職を失うと途端に家賃が支払えなくなってしまうことが珍しくはない。

54歳女性は3ヶ月更新の派遣社員として働いていたが、上司からパワハラを受け、睡眠障害やめまいを頻繁に起こすようになった。医師からは適応障害と診断され、仕事にドクターストップがかかった。契約期間中は健康保険から傷病手当金が支給されたが、契約期間満了とともに退職し、雇用保険に切り替えようとしたところ、会社の不手際で受給ができなかった。2ヶ月間無収入で貯金を使い果たしたため、家賃を滞納してしまった。

40歳女性はコールセンターで契約社員として働いていたが、会社の事業縮小で契約満了とともに雇い止めとなってしまった。家賃滞納がかさみ、アパートも退去させられてしまった。

失業と同時に会社寮などから追い出される
 最後に、非正規雇用、特に派遣社員の場合には会社寮に住まわされていることが少なくない。その場合には雇用と住居が直接的につながっているため、失業すると同時に直ちに住居を失ってしまうことになる。

30歳男性は、自動車製造の派遣社員として登録する際、残業がないと言われていた。しかし、実際には毎日2時間の残業があり、仕事自体がきつい労働であること、さらに本人の体力的な問題もあり、仕事中に血尿が出た。派遣先が見かねて派遣会社に連絡し、派遣会社を解雇されると同時に、会社寮を追い出されることになってしまった。預貯金もないため、生活保護の申請を考えている。

派遣社員の57歳男性は、免許を所持していないにも関わらず、派遣先から工場でのクレーン作業を行うよう命じられた。本人はもともと断っていたが、会社の説得に応じて作業に従事することになった。しかし、クレーン作業で同僚にケガを追わせてしまい、本人も責任を感じて精神的に参ってしまったため、仕事を辞めた。同時に住んでいた社宅を追い出され、ホームレスになってしまった。

権利行使を通じて住居喪失を防ぐことは可能
 では、住居喪失の危機に対して、どのような対応が可能だろうか。

 まず、住居を喪失するリスクについては、労働問題に対処することで防ぐことが可能だ。雇止めによって会社の寮などから退去を求められた場合でも、労働組合による団体交渉や裁判を通じて雇止め自体の正当性を争い、撤回させることができれば住居を維持できる。

 2008年のリーマンショック期には、解雇に伴う住居の退去について労働組合が交渉したほとんどすべてのケースで延長させることに成功している。労働組合には一人でも加入できる(下記の相談窓口参照)。

 また、2018年以降は、労働法上の義務を負いたくないために、企業が「5年」や「3年」で非正規雇用の雇い止めを行うケースが少なくない。そのような場合にも、ぜひ労働法の権利の行使が必要である。労働法のルールをかいくぐるために行う解雇は違法の可能性が高い。これについても、労働組合に加入して行う団体交渉で、解雇の撤回や賠償を得られるケースも存在する。

 さらに、低賃金のために一般の賃貸住宅の家賃支払いが困難になった場合にも、労働組合で賃上げ交渉を行い、支払い可能な賃金に引き上げていくこともできる。

 東京東部労組の組合員が株式会社メトロコマースを訴えている事件では、契約社員の販売員が非正規であるという理由で差別され、低賃金による生活苦にあえいでいるかということが問題となっている。契約社員は月の手取りがわずか13万円程度であるために、アパートの更新料の支払いが困難となっていた。同社では、組合を通じた交渉で、非正規雇用の一定額の賃上げに成功している。

 (ただし、メトロコマースの事例では、3年分の賃金を比較すると、同じ仕事をしている正社員と契約社員では年収比で2倍以上の開きが生じている。現在、この大きすぎる格差に対する是正を求める裁判が行われている)

 参考:ホームレスにもなりかねない非正規の実態 メトロコマース事件から考える

 これらに加え、たとえ労働問題を解決できなくても、住居を守る方法はある。一般の賃貸住宅で家賃を滞納してしまい、家主から追い出しのプレッシャーがかけられても、すぐに出ていく必要は、実はないのである。

 極論を言えば、強制執行の手続きまでは居住し続けることが法的に認められる。そのため、その期間に家主と交渉することで、滞納した家賃を分割で支払うなどしながら住居を維持できるケースも珍しくはない。

 会社寮に住んでいた場合にも、雇止めがたとえ適法であっても、相場程度の家賃を支払っていれば、一般の賃貸住宅と同様の居住権を主張できる。

 上記の方法でどうにもならなかった時に、生活保護を利用することも正当な権利である。

おわりに ぜひ支援団体に相談を
 これらを自分ひとりでできなかったとしても、私たちPOSSEやユニオンが居住権の行使を支援する活動を行なっている。

 この度、NPO法人POSSEは、非正規で働き住居からの追い出しなどの問題を抱えている方を対象に、11月30日(金)と12月1日(土)に「非正規住居追い出しホットライン」を開催する。

 また、上記日程以外でも、非正規労働者を対象に、雇い止めなどによる住居喪失に関する常設相談窓口を設置する。

ぜひご相談いただきたい。

非正規住居追い出しホットライン
日時:12月1日(土)13:00~17:00

電話番号:0120-987-215

相談費用:通話料含め無料

主催:NPO法人POSSE、NPO法人ほっとプラス、反貧困ネットワーク埼玉

相談は秘密厳守。

※上記以外の時間帯でも相談を受け付けています。

非正規雇用の住居に関する相談窓口

03-6699-1890

soudan@npoposse.jp

無料相談窓口
NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

ブラック企業ユニオン 

03-6804-7650

soudan@bku.jp

*ブラック企業の相談に対応しているユニオンです。

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

http://sougou-u.jp/

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

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今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2000件以上の若年労働相談に関わる。雑誌『POSSE』を発行し、政策提言を行っている。2013年には「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、著作『ブラック企業』(文春新書)は大佛次郎論壇賞を受賞。近刊に『ブラック奨学金』(文春新書)。その他の著書に『求人詐欺』(幻冬舎)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。1983年生まれ。仙台市出身。

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