JR東海が大人気イベントで「お詫び」のワケ

10月14日は「鉄道の日」。旧暦明治5年9月12日に新橋―横浜間で日本初の鉄道が開業した。この日が新暦の10月14日に当たることから、旧国鉄時代より「鉄道記念日」としてイベント、および優秀職員表彰式などが行われていた。現在は鉄道の日として、国土交通省や全国の鉄道事業者が祝賀行事を開催している。

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 近年は鉄道趣味が一般にも広まって、1年を通じて鉄道関係のイベントが開催されている。それでも鉄道の日を中心とした9月から11月までは鉄道イベントの開催件数が多い。

 鉄道イベントは鉄道事業者と鉄道ファンが公式に交流する機会でもあるし、沿線の鉄道好きな子どもたちも楽しんでいる。エアートランポリンなど、鉄道以外の遊具が用意された、臨時遊園地のようなイベントもある。

■JR東海が出した「お詫び」

 来場者には楽しい鉄道イベントだが、催行する鉄道事業者には苦労も多いようだ。2018年9月18日、JR東海は公式サイトに「お詫び状」を掲載した。内容は、9月16日に同社が浜松工場で開催した「新幹線なるほど発見デー」についてのお詫びだった。工場内が混雑した、浜松駅と浜松工場を結ぶシャトルバスの乗車や、入場の待ち時間が長かった、その結果として入場できなかった人がいた等。周辺の住民にも迷惑をかけたという。お詫びは「今後の運営方法をしっかりと検証し、次回以降に活かしたい」と結んでいる。

 このイベントは筆者も見物していた。東京から浜松工場へ直通する「浜工新幹線」に乗りたかったからだ。現地の様子を見ていると、確かに「ドクターイエロー車内見学」など定員制の体験コーナーは長蛇の列。試しに「新幹線運転台見学」に並んでみたら、整理券を受け取るだけで2時間以上も並んだ。午後になると、帰りのシャトルバスもタクシーも2~3時間待ち。バスツアーの来場者数も多く、観光バスは46台もあった。これだけ押し寄せれば周辺道路の利用者も困惑しただろう。

来場者が多かった理由は、毎年、7~8月に2日間で開催されるイベントが、今年は9日の1日だけになったことだ。2日間で3万人以上を動員するイベントというから、今年は1日に3万人以上が集中したかもしれない。3連休の中日という好日でもあった。真夏ではなく、風の心地よい9月の開催も来場者を誘発しただろう。

 なぜこの日程になったのか。理由をJR東海に聞くと、9月開催は「前年までの酷暑の時期の開催を顧みて」。1日だけになった理由は「運営の都合上」とのことだった。来場者への配慮や車両の整備点検日程との兼ね合いとはいえ、結果的に時期は裏目に出てしまった。

 筆者が見るかぎり、スタッフの皆さんはとても頑張っていた。残暑が残る快晴の日、ずっと日なたで声を上げて案内したり、場内を整理したり。特に迷子札は秀逸だ。新幹線のイラスト入りで記念品にもなる腕輪で、これなら子どもも喜んで着用する。広大な場内で迷子放送もあったけれど、同じ案件が繰り返されることは少なかったから、1件あたりの解決は早かったはずだ。

 新幹線の整備工場という現業部門を停止して、来場者を迎え入れる準備をするのは大変なことだ。さらに案内役のアルバイトを雇い、警備員も多数動員し、当日の係の動きの段取りも考える。それでいて、来場者は入場無料である。混雑するコーナーもあったけれど、それはこの手のイベントでは当たり前のこと、という認識が筆者にはある。比較的自由に見学できる場所も多く、80人単位で乗れるトラバーサー体験は待ち時間も少ない。遊びに来た側としては、ただ感謝しかなかった。

 これだけ苦労を伴ってもクレームは来る。鉄道会社はいったい何のためにイベントを開催するのだろう。沿線の人々に鉄道を親しんでもらいたい。ファンサービス。鉄道の現場を理解してほしいという意味までは想像がつく。ほかにはどのような理由があるのだろうか。

■「現場の職員がお客様の笑顔を見る機会」小田急電鉄

 10月20日、21日に海老名駅周辺で「小田急ファミリー鉄道展 2018」を開催した小田急電鉄に聞いた。同イベントは1999年から実施しており、台風で中止となった2010年を除いて18回目だ。開催の目的は「社会貢献活動の一環として、鉄道事業の理解促進、小田急ファンの獲得・醸成」で、その目的は当初から現在まで変わっていない。

鉄道ファンにとっては、普段立ち入ることができない車両基地に入るワクワク感が魅力。車両を近くで見たり、撮影したりできる。今年は引退したロマンスカーLSEの展示が目玉だった。

 社会貢献活動なので入場無料。イベント自体は儲からない。社員は2日間で延べ約800人、アルバイトも2日間で延べ約170人、警備員は夜間含めて約50人が動員される。会場内で小田急電鉄の最新商品や箱根登山電車、江ノ電、グループバス会社のグッズが売られているものの、その売り上げは個々の販売者のもので、小田急にとっては大幅な持ち出しだ。しかし「社内からも、株主からも反対意見はなく、利点を理解していただけていると考えております」(小田急電鉄)。

 「鉄道事業の理解促進と小田急ファンの獲得という点に加えて、鉄道現業の係員のモチベーションアップにもつながっている」という言葉が好印象だった。線路保守や乗務員の仕事などの実演がある。駅員や車掌はお客様に触れる機会がある。しかし、運転士、保線などの現場は、お客様が立ち入れない場所だ。そこで働く人々にとって、イベントでお客様にふれあうことで、「自分たちがこの笑顔のために働いているのだ」と認識できる。

 小田急電鉄はイベントで、お金では得られない多くの物を受け取っている。それはJR東海はじめ、多くの鉄道会社のイベントに共通する利点だろう。

■「市民イベントから観光イベントへ」大井川鉄道

 10月20日、21日は大井川鉄道も「SLフェスタin新金谷」を開催した。主催は同社と島田市によるSLフェスタ実行委員会だ。同イベントの開催は2011年から。SL運行で全国的に有名な大井川鉄道は、意外にもイベントとしては後発である。イベント開催のきっかけは島田市の市民向けイベントだった。

 島田市観光課に聞くと「観光庁が2010年に呼びかけた『家族の時間づくり』プロジェクトに参加し、企業と市民の協力で10月に4連休を設定しました。家族の時間を楽しむ場所として、SLフェスタを開催しています」とのこと。2010年は親子SL無料乗車体験を実施。約1200人が参加した。2011年には島田市の支援で新金谷駅に転車台が設置された。そこで、転車台の稼働開始を記念するイベントと合わせてSLフェスタとなった。

市民プロジェクトとして始まったSLフェスタは、全国から鉄道ファンを集めるイベントになった。そこで、家族の時間づくりプロジェクトが終わってからもイベントは継続している。

 「(イベント関連で)儲かるか儲からないかは判断しにくい。しかし行政との共催イベントのため予算をつけてもらうことができて助かっているのは事実」と大井川鉄道の広報担当者は事情を明かす。毎年、予算がついているということは島田市や静岡県も効果を認めている証しともいえる。

 「メリットは『きかんしゃトーマス号』の運転と同じで、『大鉄(大井川鉄道)を知ってもらう』です。島田市の10万の人口のうち、日常的に使う人、沿線で大鉄を意識している人は2万人弱くらいなので」(大井川鉄道)

■行政からも「もっと鉄分を!!」

 島田市にとっては観光客(交流人口)の拡大、大井川鉄道にとっては地域の中で存在価値を高めていく。それがSLフェスタの目的といえそうだ。

 「今年はSL(蒸気機関車)、EL(電気機関車)、DL(ディーゼル機関車)と3種の動力源がそろいます。鉄道ファンには珍しい構図ですし、入替作業は子どもが見ても楽しいかもしれない。電気機関車の運転台添乗とか、鉄道カラーを打ち出したイベント。行政からも鉄道カラーを打ち出したものを求められている」(同)

 行政サイドが「もっと鉄分を!!」と求めているとは面白い。鉄道イベントは単なるファンサービスだけではなかった。地方鉄道のイベントは、来場者と鉄道会社、そして自治体にとっても利点があり成り立っている。

 人気がありすぎてうれしい悲鳴という状況も、行きすぎればクレーム対処に追われてしまう。混雑対策を解決した例として、東京メトロが11月18日に開催する「メトロファミリーパーク in AYASE」は事前応募制を採用している。1万5000人が参加可能で、応募者多数の場合は抽選。かなりの高倍率という。双方に利点があったとしても、安全を維持できなければ意味がない。来年以降、JR東海の「新幹線なるほど発見デー」がどんな形になるか気になるところだ。

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