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zoom RSS “ヒップホップ”なスクラムマスターが見せてくれた、リーダーの資質

<<   作成日時 : 2018/07/29 15:43   >>

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チーム・アーモンドバター
 アジャイル開発フレームワーク「SAFe(Scaled Agile Framework)」のトレーニングをシカゴで受けた時のことです。4日間の「SPC(SAFe Program Consultant)」トレーニングの第1日目が始まろうとしていた時、まだお互いをあまり知らない参加者たち24人は、5つのテーブルに分かれて座り、少し緊張した面持ちでインストラクターがトレーニングを始めるのを静かに待っていました。

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 まさにその時――、いきなりドアが勢いよく開き、慌てて教室に駆け込んできた1人の参加者がいました。緊張した空気をものともせず、大声で「間に合った!」と言いながら空いている席を探し、事もあろうにたまたま空いていた僕の隣の椅子にドカッと腰を下ろしました。

 僕は彼を見ながら「まいったな」と心の中で舌打ちしました。というのも、シカゴ・カブスの帽子を斜めに被り、あちこちに入れ墨やピアスをしているアフリカ系アメリカ人の彼は、見るからに“ヒップホップ”を地でいくタイプだったからです。SAFeのコンサルタントを目指す参加者たちの中で、彼の存在は異様でした。

 それでも一応「ハイ」とあいさつしてみたところ、低い声で「ヨウヨウ」と返事が返ってきたので、「ああ、やっぱりこの手のノリの人か」と、これからの4日間を思い、少し暗い気持ちになりました。それに、きっとここまで走って来たのでしょう、彼と握手した僕の手は彼の汗でベトベトになってしまいました。

 そして彼が急に、バックの中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探し始めたので、きっとノートとペンでも準備するのだろうと思って見ていたところ、何とアーモンドバターの瓶とプレッツェルの袋を机の上にデンと置き、プレッツェルにアーモンドバターをたっぷりと付けながら、むしゃむしゃと食べ始めたのです。「まだ朝飯食ってないんだよ」と言いながら、僕にもプレッツェルを「食う?」と勧めてくれました。

 隣のテーブルには、きれいなお姉さんがいました。「テーブルを移るのは今しかない」と焦っていたところ、インストラクターから「それぞれのテーブルのチーム名を決め、チーム名簿と一緒にポスターを作るように」と指示が出ました。

 彼は、アーモンドバターの瓶を手にしながら、「チーム名はアーモンドバターでいい?」と聞くや否や、テーブルに座る他の4人の返事を待つか待たないかの間に、大きな紙にこれまたヒップホップ調の落書き(グラフィティ)風に、見事なポスターをあっという間に作ってしまいました。僕はきれいなお姉さんのいるテーブルに移ることも忘れ、彼の才能にあっけにとられてしまいました。

アルバイト警備員だった彼
 休み時間に、今、何をしているのかを彼に聞いてみました。すると、あの世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートのソフトウェア開発部門でスクラムマスターをしているというのです。

 彼は以前、ウォルマートのあるの建物の中で警備員のアルバイトをしていて、いつも休憩所にやってくるソフトウェア・エンジニアやマネジャーたちと仲良くなり、マネジャーからの誘いもあって、スクラムマスターとしてウォルマートに正式採用されたというのです。

 このたった4日間で2600ドルもするトレーニング費を快く出してくれたのも、そのマネジャーだと言っていました。「へー、そんなこともあるんだね」と相づちを打ちながら、あまりにも意外な彼の話の展開に、時間が過ぎるのを忘れてしまいました。

「チームはファミリー、連中は俺のブラザーだぜ」
 スクラムマスターになってから丸5年がたつ彼は、スクラムマスターは天職だと言っていました。

 「俺はブラザーたちのためなら、会社とだって戦うぜ」「ブラザーたちを家に招いては飯を一緒に食っているぜ」「俺たちはファミリーだからな」「もちろんヤルべきことはきっちりやってるよ」と、まるでストリートギャングみたいな言葉が彼の口から次から次へと出てきました。

 SAFeのトレーニングは、ロールプレーイングゲームや議論があったりと、どれも能動的です。特にこのSPCトレーニングはそうでした。そんなトレーニングの場にあって、彼はとてもユニークに振る舞っていました。

 トレーニングの参加者が議論に白熱しているとき、彼はイヤフォンで音楽(ヒップホップ?)を聴いていて、ほとんど議論には参加しません。でも議論が行き詰ってくると、いつの間にか会話に潜り込んでいて、違う視点から議論を再び盛り上げたり、さらには結論をまとめ上げたりするのでした。大きな紙を使ってプレゼンテーションする時などは、面倒くさいところはたいてい彼が引き受けてくれました。

 そんなことが何度か続くうち、僕だけでなく、他のトレーニング参加者の彼を見る目も少しずつ変わってきたのです。SAFeでは、「リーダーは召使い(サーバントリーダー)であるべき」と教えますが、もしかしたら彼は“頭の切れる”サーバントリーダーだったのかもしれません。

 彼は、うちの会社の、あの気取っていて、いつもアジャイルの方法論ばかり語っているスクラムマスターとは大違いです。全然違います。あのお高くとまったうちのスクラムマスターと一緒に仕事をしたいとは思ったことは一度もありませんが、このヒップホップのスクラムマスターとなら、一緒に仕事をしてみても良いな、と思ったほどです。

 彼によれば、彼のチーム(ファミリー?)はウォルマートの中でも最高の成績を収めているそうです。そのため、彼の上司もSPC候補として彼をこのトレーニングに送り出してくれたとか。彼も立派ですが、元アルバイト警備員にその才能、つまりスクラムマスターの本質を見いだした彼の上司の“人を見る目”は、素晴らしいものがあります。

 一方、彼の風貌だけを見て、隣のテーブルに移りたいなどと思った自分が恥ずかしくなりました。

アメリカンドリームは死んでいなかった
 「アメリカンドリームは死んだ」といわれて久しいですが、彼の話を聞いていて、まだまだアメリカは捨てたものではないなと思いました。

 想像するに、彼の学歴も、それまでの経歴も、決して人に自慢できるものではなかったでしょう。また警備員の頃は、それなりに貧しかったのではないでしょうか。でも今では、チームの仲間(ブラザー?)を自宅に招いて食事を振る舞うようになったのです。チャンスが与えられ、チャンスを生かせる土壌がある――「アメリカンドリーム」が、まだここには残っていたようです。

 最後に、彼のおかげで4日間のSPCトレーニングはとても楽しいものになったということを付け加えておきます。

著者プロフィール:津吉政広
ソフトウェアからハードウェア開発まで幅広くこなしています。Lean Six Sigma や SAFe も使っています。

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