高校野球ファンを大きく動揺させる 甲子園中央特別席の前売り指定化

甲子園観戦は聖地巡礼
高校野球の魔力に吸い込まれるのは、丸刈りの少年たちだけでない。この国には高校野球、甲子園を人生の中央に位置づけるファンがいる。彼らは春秋の地区大会、夏の都道府県大会とこまめに足を運び、春の選抜や夏の選手権大会では開会式から決勝まで甲子園に陣取る。

私はそこまでの覚悟がない中途半端な観戦者だが、「この人はどこに行ってもいるな」という仲間が何人も思い浮かぶ。球場で会えば挨拶を交わす高校野球ファンもいる。皆勤は無理でも夏休みを取って甲子園に駆け付けることを「人生最大の喜び」にしているファンもいる。それはもう娯楽の次元でなく「聖地巡礼」に近い。甲子園はイスラム教徒にとってのメッカのようなものだ。

そんな彼らを間違いなく動揺させるニュースが、24日に発表された。18年8月に開催される第100回全国高校野球選手権記念大会の運営委員会が、チケット販売に関するリリースを行った。

巡礼者のベストポジションは中央特別席
まず入場無料だった外野席の有料化される。また中央特別席の全席前売り指定化が行われる。一般的には前者が大きなニュースとして取り扱われたが、既にそういう情報は出ていた。一方で後者は大きなサプライズで「巡礼者」の有りように極めて大きく影響する。

甲子園球場には中央特別自由席、内野席、アルプス、外野と四つの区分けがある。大会を朝から晩までフルで見るような人は中央特別席に入ることが多い。屋根があるため夏の日射や雨を避けられ、加えてホームベースが近いからだ。

応援をしたい、好きな選手を近くで見たいといったニーズを持つなら別だが、試合自体を熱心に見たいなら野球はネット裏から見るべきだ。プレーの大半がバッテリー間で起こるし、投球の左右、高低、変化がはっきり分かる唯一のアングルだからだ。

中央特別自由席は2014年に値上げされたが、それでも1枚2千円。プロ野球ならば1試合で5千円、1万円といった値段の付く場所がお得な値段で売られている。ただしこの席種の争奪戦は熾烈で、夏の選手権なら朝5時に並んでも買えないことがある。

転売業者の食い物になっていた通し券
本気のファンは「通し券」を購入することで、聖地の安住権を手に入れる。これは1回戦から決勝戦まで14日分をまとめて買えるセット券。17年は28000円で発売されていた。

しかしこの通し券が転売による「さや取り」を狙う業者や個人の食い物になっている現実があった。第99回大会の通し券は、私は東京都内なので発売日の午後に問題なく購入できたが、関西は午前中に売り切れたと聞いている。「1人5枚まで」という制限ぎりぎりに購入し、オークションサイトでバラ売りをする「ビジネス」があるのだろう。

チケットの二次販売の法的な問題、是非についてはここで議論しないが、そのような実態が問題化することは火を見るより明らかだった。

中央特別席で起こった様々な問題
加えて通し券の販売数自体もおそらく増えている。中央特別席の通し券を保有しているファンは開門前から7・8号門前に並ぶのだが、その列が年々長くなっていた。

当日券売り場の先頭に並んで無事に中央特別自由席を購入しても、入場は開門前から並んでいる通し券組のあとになる。それではホームの真後ろ、前寄りの良席になかなか座れない。状況がエスカレートすれば更に通し券の必要度が上がり、二次販売の業者が利を得ることになりかねない。

また中央特別席が座席指定でなかったことにより、通し券を持って先に入った観戦者が、あとから入ってくる仲間の場所を確保することが一般的に行われていた。「大きなバスタオルと洗濯物を挟むクリップ」で一気に5人分、10人分の席を抑える行為はマナー違反と考えられても仕方ない。しかし指定化によってそういった行為を抑止できる。

個人的には中央特別自由席を大幅に値上げすれば良いと思っていた。需要と供給のバランスが大きく偏っている場合は、値段を上げて是正することが自然だ。消費者として、確実にネット裏へ入って3試合、4試合を見る権利を得られるなら、それくらいを払う価値があるとも思う。それで得た収益は、球児に還元すればいい。

もちろん値上げに全くデメリットがないわけではない。「夏休みの子供が気楽に見に来れる」値段ではなくなる。しかしそれは仕方のないトレードオフだろう。

外野席の有料化、中央特別席の前売り指定化は「行列対策」という側面もある。夏は甲子園球場外の限られたスペースが開場やチケット発売を待つファンで埋まり、警備や列の整理に人を取られていた。人の密集や移動による、安全上の問題もあった。この部分でも対策は必要で、兵庫県警からの要請があったのかもしれない。

前売り指定化で問題は解決できるのか?
一方で中央特別席の前売り、指定化は不確定要素も多い。例えばコンビニの端末などから購入できる形にすれば、全国の売り場が高校野球ファンに占領されるだろう。発売を限られた窓口に絞れば、大行列になるだろう。「徹夜をしても」「何万円出しても」という覚悟を持つ人がこの国には何千、何万といる。

彼らはそれぞれ「こうすればチケットが手に入る」「ネット裏から見られる」というノウハウやコネクションを持ち、中央特別席に安住していた。今までの甲子園観戦の有りようが理想だったとは思わない。しかしまかりなりにもあった「秩序」を壊して作り直すわけだから、大きな混乱が起こるだろう。

ルールによる抑制も行われるのだろうが、加熱しているファンを「理」で覚ますことは容易でない。中央特別席の入場料金、販売方法は4月の選手権運営委員会で決まる。エレガントな解決が可能なのか、興味深く見守りたい。

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大島和人
球技ライター
1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をバスケ強国スペイン、バレー王国ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。

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