本物の刑事たちが教える、今クール見るべき「刑事ドラマ」 小さな巨人、捜査一課長、CRISIS…

今クールの連ドラの半数近くは警察モノ。しかもそれらが平均視聴率ベスト5を占める。各局がしのぎを削る刑事ドラマを、プロたちはどんな目で見ているのか。現職・OBの本物の刑事たちに聞いた。

本物の刑事たちが教える、今クール見るべき「刑事ドラマ」 小さな巨人、捜査一課長、CRISIS…
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天海祐希はリアル
 元警視庁警視で刑事部捜査二課管理官を務めた萩生田勝氏が言う。

 「天海祐希さん主演の『緊急取調室』(テレ朝系)は、人物設定が現実に近い印象を受けました。天海さんと同僚の会話や、取り調べの相手に対する物言いもリアリティがあります。

 実際にはドラマに登場する緊急事案対応取調班のような取り調べ専門の刑事はいませんが、それを抜きにしても、とても感心して見ています」

 同作は天海らが演じる凄腕取調官が、密室で被疑者と繰り広げる心理戦が見どころ。第1話では、被疑者役として女優・三田佳子が出演し、天海と大迫力の掛け合いを行う。

 決定的な証拠を突きつけて取調官は言う。

 天海「もう逃げられませんよ、すべて話していただきます」

 三田「取り調べですべてをいわせようなんて厚かましい! わたしにだって自分の気持ちなんてすべてわからないんだから」

 天海「自分でも気付かなかった気持ちや目を背けていたことを話していただくのが我々の仕事です」

 実際のプロたちも唸らされている。

 元大阪府警生活安全課刑事の高橋功一氏が言う。

 「捜査の前段を分離して、取り調べから入るというのは、捜査員に先入観を植え込まないという点で、面白い。通常は被害者や関係者から話を聞き、『絶対に許さない』という気持ちで捜査にあたりますが、被疑者の供述から事件を明らかにしていく展開は斬新ですね」

 元埼玉県警警部で、現在は民間警護会社「セーフティ・プロ」代表・佐々木保博氏も評価する。

 「冤罪を防ぐために取り調べの可視化が義務付けられようとしている流れの中で、今後は専門的な取調官が必要になってくるでしょう。その意味では、時代に先駆けたドラマだと思います。

 登場する取調官は、みなそれぞれ個性があって、独特の落とし方を持っている。現職の警察官も参考にしたほうがいい部分があります」

 佐々木氏が言う通り、脇を固める俳優の顔ぶれは多士済々だ。

 「優しそうに見えてスキがあったら食らいつく小日向文世、ガンガン強気でいくでんでん、情に訴える大杉漣。いかにもいそうなベテラン刑事の雰囲気がよく出ています」(元警視庁暴力団担当刑事)

 天海が演じる女性取調官も魅力的だという。

 「天海さんは実際に警察で取り調べをしたとしても、上手に話を聞き出せるかもしれない。私の経験で言えば、ネチネチやるんじゃなく、さっぱりとしている女性が取り調べに向いている。実際の女性刑事とダブって見えますね」(前出・萩生田氏)

所轄の安田顕に共感
 『半沢直樹』と同じスタッフが数多く参加し、前評判が高かったのが、『小さな巨人』(TBS系)だ。

 長谷川博己が演じる主人公は、将来を嘱望された警視庁捜査一課の敏腕係長。だが、一度の小さなミスで所轄署の刑事課課長代理に飛ばされてしまう。

 警察内部の対立がテーマのためか、プロたちの賛否も大きく分かれた。

 前出の高橋氏が言う。

 「警察は銀行よりもさらに法律や命令で縛られた組織ですから、たしかに人間ドラマが描きやすい。

 警察はピラミッドの構図がわかりやすい階級社会。そして、『上命下従』が絶対。かなりデフォルメはされていますが、その軋轢が上手く描かれています。私は所轄と警視庁本部の両方の経験があるので、どちらの気持ちもよくわかります」

 長谷川が演じる主人公は、自分を罠に嵌めて所轄に異動させた捜査一課長(香川照之)に対して、所轄刑事の矜持を見せる。

 長谷川「あなたに従うことで、組織で生きることができたとしても警察官としての自分が死ぬことになります。それは、絶対にできません。そして、もう一つ。この事件はまだ終わっていません。まだ裏があるはずなんです」

 香川「その根拠は? 

 長谷川「私の勘です」

 対峙する二人。

 香川「その勘に、覚悟はあるのか? この警視庁捜査一課長の目を見て言え。覚悟なきものに何も言う資格はない」

 長谷川「覚悟なら、あります。自分の運命を受け入れ、所轄刑事の人間として。私は、捜査一課のあなたと戦ってみせる」

 都心にある警視庁の所轄の元刑事もこう語る。

 「所轄の警察官の立場からすると痛快なドラマ。実際のところ、所轄と本部の対立は個々人の意識の中にあっても、表面化はしません。

 本部はスペシャリストで、所轄はよく言えばオールラウンダー、要は何でも屋。どちらが秀でているということではなく、役割が違う。とはいうものの本部に行きたくてゴマをする所轄の署員はいますし、本部に対してのひがみ根性もありますよ。

 弱い者が強い者に意見をすると叩かれ潰されるのが、警察組織ですが、ドラマだと楽しんで観られます」

 現場の刑事たちが一番共感するのが、安田顕が演じる所轄の叩き上げベテラン刑事だという。

 「彼のような『事件現場にいたいから昇任試験なんて受けたくない』なんていう職人のような刑事は、一昔前にはよくいた。その泥臭い雰囲気が出ているよ」(前出・元警視庁暴力団担当刑事)

一課長の部屋が豪華すぎ
 『警察捜査の正体』の著者で、元北海道警・釧路方面本部長を務めた原田宏二氏は手厳しい。

 「エンターテイメントに目くじらを立てるつもりはありませんが、人事担当課長を経験した私にとっては、あまりに現実とかけ離れていると思わざるをえませんでした。

 将来、捜査一課長になりたいなんて、ひけらかすような刑事は、『あいつはバカか』という評価になってしまうでしょう。警察の人事は基本的に年功序列で、自分の思うようにはなりません。

 たまたま人事の流れでポストが空けば、捜査一課長に座れることもあるでしょうが、一課案件で実績をあげたところでなれるわけではないのです。

 また、このドラマでは、やたらと正義という言葉が出てきます。私は現役時代、そんな言葉を使ったことはありません。冤罪事件を先導することになりかねないからです。事件の筋を冷静に判断すること以外に、何かの思惑をもって指揮を取るのは捜査幹部として失格です」

 小説『院内刑事』などの著書がある作家で、元警視庁警視で公安部OBの濱嘉之氏も言う。

 「基本的な設定や言葉の使い方が間違っていると白けてしまいます。『小さな巨人』ではこんな場面がありました。所轄の捜査員が張り込みしている現場に本部の人間が現れる。このとき、捜査員が『あっ、警視庁だ』とありえないセリフを言ったんです。『本部だ』や『一課だ』なら理解できますが、所轄も警視庁ですよ」

 警視庁捜査一課のOBからはこんな指摘も。

 「香川照之が演じる一課長の部屋が豪華すぎ。副総監の部屋だってあんなに広くない(笑)」

 『CRISIS』(フジ系)は、警察庁警備局長直轄の秘密部隊「公安機動捜査隊特捜班」の捜査員を描いた作品だ。

 冒頭から圧巻だった。いきなり新幹線内でテロリストと激しい立ち回り。最後は橋の上に緊急停車して、小栗旬が演じる捜査官が爆弾を抱えた犯人と一緒に川に飛び込んだ。

 前出の濱嘉之氏が語る。

 「警視庁公安部の執行隊を、警察庁の警備局長が直轄できるわけがない。指揮系統がおかしいんですよ。また、作中ではアクションシーンが多いですが、公安部は目立たないことが前提です」

 一方、前出・佐々木氏は楽しんで見ているという。

 「公安は『警察官でも知らない警察』という面があり、『ありえないが、もしかしたら自分が知らないところでは……』と思わせる部分があります」

 警視庁本部の課長経験者OBはこう語る。

 「簡単に拳銃の出所が割れるなどツッコミどころはありますが、それをするヒマもないくらい展開が早くて小気味いい。また、安易に発砲せずに、体術で容疑者を取り押さえる点はリアルですね」

元警察庁長官が語る
 前出の濱氏が最も評価するのは、『警視庁捜査一課9係』(テレ朝系)だ。

 「シリーズが長く続いているだけあり、警察組織のことがよく調べられていますし、人間模様もしっかりと描かれている。内容に安定感があります。

 二番目に評価できるのは『警視庁・捜査一課長』(テレ朝系)です。こちらもよく研究しています。

 ノンキャリア出身の一課長は皆、苦労しています。花形ではありますが、課長会議ではキャリアの二課長や参事官もいて、下に見られてしまうところもある。弱さもあるからこそ人徳がある。

 主演の内藤剛志さんにはそれが滲み出ている。一人娘を亡くしている設定で、被害者の気持ちも分かるという深みもあります。警察考証をしっかりしているのはこの2作品です」

 テレ朝の刑事ドラマには一日の長があるようだ。元警視庁刑事で薬物や少年事件を担当していた吉川祐二氏も同意する。

 「この2作品は、派手さはありませんが、警察の地道な捜査を丁寧に描いている。『捜査一課長』の内藤さんが自宅で寛いでいるときも常に携帯電話を気にしているちょっとした仕草もリアルです。

 『9係』では、指示や指揮命令が的確なことに心を奪われました。現役時代と重ね合わせて夢中になって見てしまいますね」

 前出の警視庁課長経験者OBもこう言う。

 「『捜査一課長』では本田博太郎さん演じる刑事部長が抜群に良い。理想の上司です。余計なことは言わず、責任を取るタイプ。あそこまで腹が据わったキャリアはなかなか現実には存在しません。一般企業の方も見習うべきものがあるのでは」

 最後に第12代警察庁長官を務めた山田英雄氏が本誌にこう語る。

 「犯罪捜査は総合力です。会議で合議しながら、一人一人が与えられた任務を遂行、それを統括官が指揮し、真理に近づいていく。皆さんにドラマを通じて捜査に興味を持ってもらえればと思います」

 結論から言えば、心理戦を楽しむなら『緊急取調室』、スカッとしたいなら『小さな巨人』、スピード感なら『CRISIS』、王道の刑事モノなら『9係』と『一課長』。好みに合わせて初夏の夜を楽しんでほしい。

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