ビーチ文化と海の家 音楽禁止の余波(下)自主規制限界、正常化へ挑戦続く

「完全に後出しだ」

 鎌倉市由比ガ浜で音楽イベントの開催を計画していた運営者は憤りを隠さない。

 シーズン入りして13日後の7月22日。海の家経営者らで構成する「由比ガ浜茶亭組合」が、「クラブイベントの中止」を決めた。その後に予定していた複数のイベントは見送りを余儀なくされた。「初めから言ってくれれば、イベント構成だって変えられた。実際いろんな意味で損害だって発生している」

 今夏、藤沢市の片瀬海岸西浜海水浴場が「音楽全面禁止」を打ち出した余波で、クラブイベントを求める若者らが由比ガ浜へ流れ、客層が一変。入れ墨やタトゥーを露出させた客が急増した。海の家関係者は「風紀が悪化したことは一目瞭然」と眉をひそめる。

 ただ、西浜の動きを事前に察知していた由比ガ浜茶亭組合は、シーズン前から、音楽イベントを開催する海の家に防音設備を義務付けたり、音楽イベント開催に組合長の事前承諾を求めるなど自主規制を強化。それぞれの海の家では、入れ墨やタトゥーを露出させた客の入店を断るルールで統一し、備えた。

 が、予想を超えていた。「このまま放置すれば風紀の乱れがエスカレートしてしまう」(増田元秀組合長)と危機感を募らせ、シーズン中にもかかわらず、「クラブイベントの中止」を打ち出した。

◆若者文化の発信地
 先手を打つ形で今夏、自主規制を強化したことで、客層は目に見える形で変化していったという。だが、増田組合長はどこか納得しきれていない。

 「ビーチは今も昔も変わらず、最先端の流行を発信してきた。それは、音楽文化と切っても切れない関係だと思う」。単に音楽を切り捨てることで解決する方策に疑問を投げかける。

 1950年代には「太陽族」がブームを迎え、60年代には加山雄三さんの代名詞でもある「若大将」シリーズが一世を風靡、その後も、湘南のビーチはドラマや映画、雑誌に登場し、若者文化の発信地であり続けた。

 そこにはいつも音楽があった。

◆行政と共同歩調で
 今夏、由比ガ浜に総合音楽・映像コンテンツのエイベックスグループが初めて海の家を設けた。「由比ガ浜は良質な客が集まるビーチ。ここでエイベックスの総合音楽コンテンツをアピールしたい」(運営担当者)との狙いだった。

 事前の規制に従い、音が外へ漏れないよう、四方と天井を壁で覆い、防音設備を整えた。

 そこへ打ち出されたのが、「クラブイベントの中止」の方針だった。

 「風紀の乱れというが、警備に力を入れ、安全対策を講じれば、けんか騒ぎなどのトラブルは制御できる」と運営者は話す。エイベックスの海の家では、屈強なガードマンを派遣する会社と契約し、トラブルに対応したという。

 増田さんは言う。「音楽を無造作に切り離し解決しても、ビーチは衰退するだけ。ルールを決め、それでいて楽しめるビーチの新しい形を発信し続けなければならない」

 折しも鎌倉市が来夏に向けて条例などによるルールづくりを検討していることが11日、判明した。増田さんは「組合は海の家の中についてしか対応できず、自主規制にも限界がある」と指摘。ビーチ全体の“正常化”に行政と歩調を合わせる構えだ。

 「海の家のクラブ化騒動」と「音楽禁止規制」は今夏、「あるべきビーチの姿とは何か」を問いかけてきた。答えを求める関係者の模索と挑戦は続く。

◇法的な許可が必要
 都内のクラブで風営法に基づく摘発が相次いでいる。ダンスミュージックを流し、来場者が踊る「クラブ化」した海の家も法規制の対象になるだろうか。県警本部生活保安課に聞いてみた。

 問題となるのは「風営法2条1項3号」だ。

 同条同号は、〈ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業〉を「風俗営業」と規定。同法は、こうした営業について3条で〈都道府県公安委員会の許可を受けなければならない〉としている。無許可営業は〈2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金〉(49条)と定められている。

 ポイントは「ダンスをさせる設備」「ダンス」「飲食」の三つ。スピーカーなどの音響装置やミラーボールなどが「設備」に当たるという。いわゆるディスコやクラブの営業がこれに当たるが、風営法の許可を受けていれば問題ない。

 ただ海の家の場合、夏季の2カ月間だけの営業のため、許可を受けているケースは多くないのが実態だ。

 中にはダンスホールの中央にテーブルを置いてビュッフェ形式にし、「ダンスではなくパーティー」と説明するイベント主催者もいたという。

 県警の担当者は「実際には現場の状況を見ないと判別できない」。その上で「いずれにしても、ダンス自体を取り締まるわけではない。法的に許可が必要というだけ。たとえ一夜限りでも、該当すれば指導や取り締まりの対象になる」としている。

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