折り目 渡邉 義晃 59 警備員 奈良県生駒市

 見慣れたアイボリーのトラックが朝の国道を右折してバイパスに入ると運転席が見えてくる。私がオレンジの誘導灯を上げて大きく合図すると、彼は運転席から手を振り返して走り去って行った。

 警備員として私が勤務するスーパーは京都府木津川市にある。小さい店舗ながらもバイパスに面した地の利で、輸送関係のお客さんや地域の老人の圧倒的支持を得て、それなりの繁盛を続けてきた。

 長距離を走る大型車両は、弁当や飲み物、お菓子などをたっぷりと買い込んでどこかへ旅立つ。大分と千葉とを往復する彼は、夕刻、大分へ帰る途中で必ず立ち寄り、弁当を買って神戸の埠頭へと向かう。ここはちょうど千葉と大分の中間に位置するらしい。

 「この餅うまいで。あんたも買うたら」と話しかけてきたのが始まりだった。以来、大分弁と大阪弁のちぐはぐなやりとりがもう10年も続いている。

 彼は三十数年勤めている運送業界のこと、健康のことなどを語った。私はダブルワーカーであること、無理が利かなくなってきた体のことなどを話題とした。お互い名前も知らないが、とりとめのない話に二人の人生が凝縮された。

 希薄なものは積み重ねることで重みを増すという。何千台か国道を通過する車両の中で、彼の車両を見分けられるようになって久しい。

 この先どちらか片方の人生に新しい折り目が出来たとき、今の関係は消えてゆくだろう。二人にとって新しい折り目は山折りがよい。

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