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zoom RSS 「ホームレス路上訪問活動」がやっていること

<<   作成日時 : 2018/04/28 17:00   >>

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上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授が指導する「水島ゼミ」は、大学生に小さなビデオカメラを持たせ、この世の中にある何らかの社会問題を映し出すドキュメンタリーの作品づくりを指導している。
若者たちが社会の持つリアリティと向き合い、最前線で活動する人々と出会うことによて、社会の構図や真髄を自ら把握していってほしいという取り組みだ。そんな若者たちの10章のドキュメンタリーをまとめたのが『想像力欠如社会』(弘文堂)である。今回、その中から松本日菜子さんによる第3章『路上生活の”おっちゃん”たちからの贈り物』を全文転載する。

 「街を歩く 心軽く 誰かに会える この道で すてきな貴方に声をかけて こんにちは私とゆきましょう オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ いつも何か すてきなことが 貴方を待つよ シャンゼリゼ」

 これは、フランス人歌手のダニエル・ビダルが日本語で歌った「オー・シャンゼリゼ」の1番の歌詞。明るい曲調で、道にいる人に笑顔で声をかける様子が思い浮かぶ。これから書く、ホームレス路上訪問の風景。この曲がぴったりだと思った。新宿の路上がフランスのシャンゼリゼ通り。顔なじみのホームレスに声をかける。いつも何か不思議な出会いがある。

 シャンゼリゼ通り、すなわち新宿の路上は、私が生きている大学生の社会より、もっと自由に話ができて、喜んで、笑って、真剣になって、「ここにいていいんだな」と実感できる場所だ。おっちゃんたちと過ごす時間は、自分が一番自分らしくいられる。

■出会いと思い出

 「こんにちは」、「こんばんは」、「何してたの?」、「おやすみなさい」。そんなに大したことのなさそうな会話だ。でも、私には1対1で話している感覚がある。スマートフォンでは簡単に連絡ができない相手。自分の足で直接会いに行く。その分、話している時間は何か特別な感じがする。

 路上訪問は毎週土曜日の夜7時から始まる。友達と遊んだ帰りの人々が新宿駅に向かうのに逆らって、私はおっちゃんたちに配るお味噌汁のポットを肩にさげ路上に向かう。1日が終わろうとしている中で、「今日はどんな出会いがあるかな」。そんなことを考えて歩くとわくわくする。新宿で夜回りをしていると、本当に多くの「出会い」を繰り返す。

 ホームレス路上訪問活動をしながら迎えた2017年元日の夜。靴下を何枚もはいて、ヒートテックを重ね着した。「寒い」というより「痛い」と感じる真夜中。わざと体温を奪おうとしているんじゃないかと思うぐらい寒かった。

新宿駅西口の橋の下で顔見知りのおっちゃんたちと立ち話をしていた。すると、初めて見かけるおっちゃんが近寄ってきた。キャップをかぶっている。「あけましておめでとうございます」と声をかけた。「おう」と口数が少ない。元日ということもあって甘酒を配っていたので勧めてみた。

 彼は手を振った。いらないらしい。だから、「今日は何してたの?」と他愛もない話を続けた。すると、「ほれ」。リレーのバトンのように輪ゴムで巻かれていた紙をおっちゃんは差し出した。最初は何かと驚いたが、ひろげてみると、壁に貼るサイズの今年のカレンダーだった。

 こうして私の2017年は、おっちゃんがくれたカレンダーとともに始まった。その後、キャップのおっちゃんと会うことはなかった。でも、彼のカレンダーは、私の部屋の壁に貼ってある。

 屋外専用カイロ熱々、フランスのシャンパンのモエ・エ・シャンドン、デジタルカメラ用三脚、万年筆、ネックウォーマー、真珠のネックレス、ホームレス支援雑誌……。

 実はこれら全て、路上のおっちゃんたちからもらったもの。私の部屋の本棚の一番目立つスペースに置いている。「ほれ、いいから持ってけ」と照れながらくれた人、「今日待ってたんだよ、みんなが来るの」と用意して待っていてくれた人。机に向かって勉強していると、ふと目に入るこのコレクション。「おっちゃん、どうしてるかな?  元気かな?」と思う。路上で出会ったおっちゃんたちとの思い出が、この「贈り物」の中にはたくさん詰まっている。

■「話す」のを待つ

 ここまで書いてきた路上のおっちゃんとは、ホームレス路上訪問ボランティアの「スープの会」で出会った路上生活者のことだ。この団体では親しみを込めて「路上のおっちゃん」と呼ぶ。最初はドキュメンタリーの取材のために始めた支援活動だった。けれど、この活動に私は現在まで、13か月通うことになる。

 スープの会は23年間、新宿駅周辺で生活している1人ひとりを「訪問」する活動を続けている。毎週土曜日夜7時に新宿に集まり、駅周辺を4つのコースにわけて周る。お味噌汁の入ったポットを持って、5人ずつぐらいで訪問する。誰でも自由参加で、小学生から大人、外国人、本当にいろんな人がボランティアに来る。

 多種多様な人が来ると、おっちゃんたちの話すきっかけにつながるのだ。スープの会に特に決まった時間制限はなく、話を聞きたかったら時間を気にせず自由に会話することができる。「こんばんは、スープの会です。お味噌汁いる?」。大体こんな感じで、会話が始まる。

 すでにお食事が終わっていたら、世間話が始まる。これがスープの会のいつもの風景。スープの会は、路上のおっちゃんと同じ時間を過ごすことを大事にしている。支援というと、炊き出しや物資支援が真っ先に浮かぶだろう。そんな中、手ぶらで訪問をするくらい、おっちゃんとの出会いを大切にしている。

 スープの会の「スープ」には諸説あるらしいが、「『スープが冷めない距離にいる』だったかな」と代表の後藤浩二さんが教えてくれた。私はほかの夜回り団体に参加したこともある。でも、おっちゃんたちが「話す」のを待っていてくれるのはスープの会だけだった。

■ケーキ

 2016年12月。新宿駅周辺はきらびやかなイルミネーションに包まれ、陽気な若者やサラリーマンらがクリスマスを楽しんでいた。その中で光が届かない暗がりでダンボールを敷いて眠っている高齢の男性たち。お味噌汁や飴玉を手渡した。

 「金井さん、お味噌汁いかがですか」、「工藤さん、その格好寒くない?  大丈夫?」。クリスマスながら参加者は約20人。普段と変わらず、新宿駅西口から南口を訪ね歩く。ボランティアによく来ている会社員の女性が「いつもお菓子もらっちゃってるから、今日だけはお返ししないとね」。おっちゃんのお家の前に手作りケーキを置いていた。

 「バレないようにね、こっそり食べちゃって」。メガネがトレードマークの田村さんが、ショートケーキ、モンブラン、プリンなどが入った白い箱を開けた。よくお菓子を用意して待っている。

 彼は新宿駅南口を進んだところにある小さな公園に住んでいる。私が初めて田村さんに会った時、抹茶の入ったほかほかのたい焼きをくれた。

 「え、ホームレスの人ってお金ないんじゃないの?」、「ていうかもらっていいの?」。私の頭の中ははてなマークでいっぱいになった。夜回りに参加するボランティアたちは気にせず、田村さんのダンボールの家の前にしゃがんで、楽しそうに話している。私が想像していたのとまったく違う「ホームレス」と呼ばれる人に驚いた。

 田村さんからは今までに、ケーキ、たい焼き、カステラなどをいただいた。小さな音で流れるラジオがいいBGMになって、まるでピクニックのような雰囲気。田村さん曰く、食べ物はその日のうちに買ってくるんだそう。

 水産高校出身で元イルカの調教師の田村さん。12月のその日は、ショートケーキを片手にイルカや船の話で盛り上がる。普段は捨てられた雑誌を集めて生計を立てている田村さん。収入は多いとは言えない。だから思い切って田村さんに聞いたことがあった。「どうしていつもお菓子をくれるんですか?」。お味噌汁をもらう申し訳なさからきているのか。お金がかかるのに買ってくれるのはなぜなのか。

 「みんなで食べるのが嬉しいの。おいしいもん食べて笑顔になって、こっちも嬉しいでしょ。自分も食いたいけど、1人で食ってるのとはまた全然違うからね」。顔をほころばせた。夕食の献立を考えるように、何にしようか考えているのだという。田村さんはみんなでお菓子を食べるのを、家庭で食卓を囲むような感覚でいたのだと初めて知った。

 おっちゃんたちと出会う中で、ご飯を1人で食べている姿をよく見かける。私も両親が共働きのため、普段は1人でご飯を食べることが多かった。訪問活動を始めるまでは、おっちゃんたちを見かけても何も気にかけなかった。ただ「食べているんだな」と見ていた。食べた後のゴミが気になってしょうがなかった。

 その後、田村さんの話を聞いて、誰もいない空間で、毎日、独りなのだと知った。ご飯を食べる時間は、今日あった出来事、それこそご飯のこと、本当に何気ない会話をする時間だ。でも彼らは、本当に1人。炊き出しに行ったとしても、並んでいる間も持ち帰って食べても1人。日本有数の繁華街の新宿で、多くの人が田村さんの前を通り過ぎる。田村さんが暮らす公園からすぐの人気のラーメン屋さんに、若者やラーメンマニアの人がみんな楽しそうに長い列を作る。それを眺める田村さんの横顔には、ふとした時に寂しそうな影が差すことがある。

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