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zoom RSS 大型連休に次のテロが…麻原逮捕を巡る検察・警察の知られざる葛藤

<<   作成日時 : 2018/04/22 11:02   >>

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妥協を許すな
 5月の大型連休が接近するにつれて、オウムによる新たなテロに対する危機感は高まっていた。

 国松長官に続いて、自分が狙われるのではないか――。

 警察の中には、こんな恐怖感を持つ幹部も現れた。全国のオウム捜査を指揮する立場にある警察庁刑事局長がそのひとりだった。彼は警察庁の庁舎内でも防弾チョッキを着込むなど怯えた姿をさらした。

 さらに極秘に転居し、刑事局長が出勤するときには所轄の十数人の警察官が鉄板入りの鞄などをかざすなど、総理大臣並みの警護をした。

 転居先の官舎は東京地検次席検事・甲斐中辰夫と同じ建物だった。甲斐中は夜中に警備もつけず、ひとりで散歩して見せ、「捜査幹部がびびったらオウムの勝ちだ」と言ってのけた。

 とはいうものの、次のテロを防ぐには教祖・麻原彰晃こと松本智津夫を逮捕しなければならない。焦燥に包まれる中、またもや検察と警察の間に対立が生じた。

 「甲斐中次席が麻原逮捕にストップをかけている」

 警察側を発信源とする、こんな情報が駆け巡り、マスコミが「何事か」と取材に動いた。

 焦点は、サリン製造やサリン散布に関わった松本智津夫以下教団幹部の逮捕罪名をめぐる、極めてテクニカルな問題だった。

 麻原らを「殺人罪」で逮捕するだけの証拠を得ていないことから、警視庁側は「殺人の準備のために、サリンを製造した」という「殺人予備」の容疑で逮捕したいと主張した。取調べで供述を得てから、起訴罪名を「殺人」に切り替えるという戦法だった。

 検察側はこれを許さなかった。

 「殺人予備で逮捕して、20日間(拘置期限)で、殺人に切り替えて起訴する証拠を得られなければ、殺人予備のまま起訴しなければならない。あとで地下鉄サリンの証拠が得られても、裁判所は逮捕状すら出せない」

 サリン製造の殺人予備で起訴することは可能だが、法定刑はわずか2年だ。しかし、サリン製造と地下鉄での散布は「包括一罪」となり、ひとつの被疑事実とみなされる。殺人予備罪で起訴すれば、既判力(ひとたび、ある罪で裁かれれば、二重に裁かれることがない、という原理)が及び殺人罪は免訴になる、という高度な法律論だった。

 検察としては化学兵器テロに関った者たちを、わずか2年の懲役で終わらせるわけにはいかなかったのだ。

 だが、この回り道によって捜査は致命傷を負った。4月22日、教団幹部・村井秀夫が公衆の面前で刺殺された。報道陣が集まった南青山の教団施設前で起きたこの事件は、テレビカメラを通して、一部始終が生中継される異例の事態となった。

 「だから、早く逮捕しようって言ったじゃないですか!」

 寺尾正大捜査一課長はこういって主任検事の鈴木和宏を責めた。

 村井はサリン製造から地下鉄サリン事件にいたるまで、麻原の指示を部下に伝える役割を担っていた。まさに実行グループとのつなぎ役。その人物を失ったことは、その後の真相解明を難航させることになった。

焦る警察
 「オウムは連休中に大規模テロを計画している。いま一網打尽にしないと犠牲者が出る」

 ゴールデンウィークの連休直前になると、警視庁側はこんな殺し文句で検察に迫った。だが、甲斐中は早期着手の直談判にやってきた廣瀬権副総監に対し、首を横に振った。

 「殺人予備で逮捕したら、オウムから『捜査側はなにも材料をもっていない』と見透かされる。誰も自白しなくなりますよ。『取調官はすべてわかっている。隠しても無駄だ』と思わせて、一挙に壊滅するのが組織犯罪捜査だ」

 ようやく納得した廣瀬だが、最後にこう釘を刺した。

 「もし連休中にテロで犠牲者が出たら、お互いに責任を取らなければいけませんよ」

 廣瀬は「重大さを理解しているのか」とばかりに、甲斐中の覚悟を確認したのだ。

 「それはそうだ。責任を取りましょう」

 甲斐中は全国26万の警察組織の怨念のようなものすら感じた。

 殺人予備罪の適用を突っぱねたものの、検察は追い込まれた。殺人罪を適用するには、サリン製造、運搬、散布に、誰がどう関わっていたかを特定しなければならないのだ。

 敵はゲリラ戦を挑んできている。地下に潜ったオウム信者がどこでテロを引き起こすか予測も付かない。ずるずると逮捕が先に伸びれば新たな犠牲者が出る。それを防ぐためには、何よりも「自白」が必要だった。

 問題は、教団幹部で、顧問弁護士でもある青山吉伸だった。彼が被疑者の接見にやってきたあとは、教団幹部が貝のように口を閉ざしてしまう。

 青山は逮捕された被疑者と接見すると、こんな紙を見せて、黙秘を指示していた。

 <お元気ですか。取り調べへの対応は大変でしょうが頑張ってください。暴力、情による誘導、誤情報によるゆさぶり、釈放をちらつかせながらの誘導etc。いろいろワナが待っていることでしょう。しかし、このような外的条件に心が動き、帰依を失っては真理の実践者とはいえません。(以下略)>

 文末には、教団の最高位を意味する「正大師一同」と書かれていた。「黙秘しろ」という脅迫である。この紙を見せられた被疑者たちは、教祖を守ろうという教団首脳部の圧力に恐れ戦いた。

 検察が窮地に陥ったとき、法務省刑事課長の小津博司(26期・元検事総長)が、次席検事室にやってきた。

 「甲斐中さん、青山にお困りでしょう。甲府(地検)にこんな告訴が出ていますので、お知らせに来ました」

 青山が記者会見で、「サリンを噴霧され、信者が傷害を負った」と主張したことなどに対して、名指しされた上九一色村の産廃処理業者が名誉毀損罪で告訴しているというのだ。

 小津は「三長官報告」と呼ばれる法務大臣、検事総長、東京高検検事長への報告文書の山から目敏く拾い上げてきたのだ。

 甲斐中は最高検に決済を求めた。検事総長・吉永祐介。特捜部畑を歩んだ、「捜査の神様」と呼ばれる伝説の捜査検事だ。甲斐中の話を聞いた吉永は腕を組んで唸った。

 「弁護士を逮捕するのか……」

 容疑は名誉毀損、緊急性を要する重罪ではない。顧問弁護士を逮捕すれば、日弁連が「弁護権の侵害」と非難する可能性がある。

 「ちょっと考えさせてくれ」

 吉永が、珍しく即決しなかった。弁護士逮捕には慎重にならざるを得ない様子だった。

 「青山を逮捕しないと、事件は進展しませんよ」

 甲斐中はこういって、了承を迫った。つづいて、東京地検検事正の飛田清弘(13期・元福岡高検検事長)が、説得のために、総長室に向かった。吉永の決済が下ったのは翌朝のことだった。

 東京地検は甲府地検から名誉毀損事件を移送受理し、5月3日、警視庁に青山弁護士を逮捕させた。自白獲得の最大の障害が取り除かれ、この4日後には早くも大きな効果を生み出した。

「私が、サリンを撒きました…」
 恐れていたことが起きた。5月5日、テロ未遂事件が発生したのだ。場所は地下鉄・新宿駅の公衆トイレ。ゴミ箱に仕掛けられた青酸ガス発生装置が発火したが、駅職員が消火し、大事には至らなかった。甲斐中は引責辞任ぎりぎりで踏みとどまった。

 その2日後の5月7日、東京地検5階の刑事部長室で、主任検事の鈴木は、斎田国太郎刑事部長、神垣清水福部長とともに、サリン製造に関わったとみられる人物をリストアップし、逮捕予定者を絞り込む作業を進めていた。

 その部屋に、教団治療省大臣・林郁夫の取り調べを担当する中井国緒検事が、ふらりと入ってきたときの様子を、鈴木はよく覚えている。

 「会議中にすいませんけど、こんなのとったんですが……」

 中井は興奮した様子もなく、数枚のPS(検察官面前調書)を差し出した。そこには重大な自白内容が書かれていた。

 <私がサリン散布を実行するために、サリンの入った袋を持って地下鉄に乗り、床において傘で刺した>

 林はサリン散布の実行だけでなく、他の実行犯や運転手の名前も喋っている。全員、飛び上がって驚いた。

 林郁夫は4月8日、石川県警に自転車泥棒で逮捕され、信者監禁などで再逮捕されていた。慶應義塾大学医学部卒の心臓血管外科医。教団内の地位も高い。サリン散布の実行役としては、まるで想定外の人物だった。

 林を割ったのは、中井とコンビを組んだ、警視庁の刑事だった。刑事は林のことを「先生」と呼び続け、命を守るべき医師としての原点に立ち戻らせたのだ。真相を覆い隠していた深い霧が晴れた瞬間だった。

 この林供述をぶつけられた運転手役の信者が自白、林供述の不足部分を補完した。

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