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zoom RSS 化学・生物兵器テロには自衛隊も国内医療もまったくの無力

<<   作成日時 : 2018/03/17 09:00   >>

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「自衛隊ができない30のこと 25」

 2018年2月27日付のニューヨークタイムズに、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家がまとめた報告書の記事が出ました。その中では北朝鮮がシリアと化学兵器製造に協力していた可能性が指摘されており、両国間で化学兵器や核兵器などの情報や物資の交換が行われたと述べられています。また、韓国の国防白書には、北朝鮮は1980年代から化学兵器を生産し始め、推定で約2500〜5000トンの様々な化学兵器を分散させて施設に貯蔵していると記載されています。この報告や推察のすべてが事実でないとしても、不安や危機感を持つのは当然のことでしょう。

 化学兵器と言われてもピンと来ない人もいるかもしれませんが、地下鉄サリン事件のサリンのようなものと言われるとその恐ろしさを思い出すのではないかと思います。かつて、営団地下鉄の車両内に散布された神経ガス(サリン)により約6000人あまりの人が負傷し、12名(司法認定の死者数。行政の死者数認定では13名)が死亡しました。第一報を受けた消防・救助隊は通常の急病人発生時と同じような体制で対応したために、さらに傷病者が増える結果となってしまいました。十分な知識と情報がなかった当時は全く無防備だったため大惨事となったわけですが、その後は十分な対策がとられているのでしょうか?

 自衛隊には、化学兵器などが国内に入って来ないように国境付近を警備したり、怪しい船舶に立ち入り調査をするような権限は「ありません」。海上警備行動が発令されるような事態になれば対処することができますが、海保と違い、化学兵器などの違法な密輸を止める権限もないのです。

 我が国の海岸線の総延長は世界で6番目、米国よりも長い長大なものです。しかし、海上保安庁の巡視船艇の多くは老朽化が進み、修理や燃料などの予算も十分とは言えず、すべての海岸線を警戒監視する能力はありません。時折、不審な漂着船が発見されたと報じられているとおり、簡単に突破できる監視体制です。空港では一人ひとりが荷物をチェックされますが、海は広大です。海から入って来るテロリストは物理的に防ぎきれません。テロから国民を守るよりも渡航の自由や外国人の人権を守るほうが重要という立場から、疑わしくても確実な証拠がなければ船舶への立ち入り検査には踏み込めないのです。

 さらに、毒ガス(化学兵器)は、時限爆発装置に仕込んで霧状に発生させることもできます。ドローンに搭載して遠隔操作でも噴霧することも可能でしょう。様々な方法でその場所にいなくとも攻撃ができるため、事前に計画を知りでもしない限り、テロを未然に防ぐことは難しいのです。

 では、不幸にも化学兵器でのテロが起こった後の対処は万全なのでしょうか? 残念ですが、警察も含め化学防護関連部隊の人員数は1000人程度であり、全国をカバーするにはまだまだ少ないと言わざるを得ません。局地的なテロには有効ですが、同時多発的なものには対処できないでしょう。

 さらに、生物(細菌)兵器の問題も指摘されています。今のところ、北朝鮮でも細菌を搭載したミサイル弾頭は未保有と言われています。限定的な被害で抑えられる化学兵器と違い、一度感染者が出てしまえばその強い感染力によってどこまで被害が拡大するのか予想がつかない細菌兵器の保有はさすがに躊躇があるのかもしれません。しかし、北朝鮮はすでに兵器に転用可能な13種類の細菌を持っており、必要と判断すれば10日以内に培養して使用できる能力があるとも言われています。死亡率を上げるために吸引感染させる肺炭疽や、現在ではワクチンが存在しない天然痘などが使われる可能性もゼロではないことも知っておくべきでしょう。

 そこで問題なのは医療体制です。

 自衛隊病院も含め、日本の医療機関にとって、毒ガスや化学兵器などを使用した攻撃はほぼ想定外なのです。我が国は平和で安全な国でしたから、医者自体そのような攻撃に対処した経験がありません。農薬や化学薬品の管理体制もしっかりしていますから、薬品事故も起こりにくい。だから、神経剤やびらん剤、窒息剤など様々な化学物質の治療薬はほとんど備蓄されておらず、そういった薬品を医師が使った経験も浅いのです。さらに、化学テロや核攻撃に対する治療薬は、普段使うものではないので一般の病院では備蓄していません。売れない、使わない薬は一般の病院も自衛隊病院も備蓄などできません。そもそも対テロ・核攻撃用の治療薬は未認可のものも多く、国内で承認されていないものも多いのです。「無駄になるかもしれないが、イザというときに国民を救うかもしれない」医薬品を備蓄し、使えるように認可し、国の権限で必要とあれば常に更新しておくことが結局は国民の命を救う近道だと思います。

 ある日突然化学テロが起き、異臭でたくさんの人が倒れている時に「毒ガスのようですが、薬はないのであきらめてください」と言われるか、「こんな日のために必要な薬剤はストックしてあります。やれるだけのことをやってみましょう」と言われるか。どちらがいいのかは言うまでもありません。

 使わないかもしれない災害用の食料や毛布、仮設住宅を国家予算や地方の予算で備蓄しておくことを私たちは当然の対応と受け止めているはずです。同じように「周辺諸国からの脅威などないかもしれないけれど、念のために準備しておく」ことはおかしなことでしょうか? 将来の事柄について見通す「イラナイかもしれない」準備も不要と切り捨てられないのです。

 無謀な節約チャレンジャーだった我が国ですが、いい加減に目を覚まして「備えあれば患いなし」という言葉のもとに賢く生きたいものです。だって、ただ苦しんで死ぬのはイヤじゃないですか? できたら生きていたいじゃないですか? 違うかな?

 自衛隊病院には、本来の任務を遂行し活躍するべき時に備えて、一般病院が持たないNBC(核・生物・化学兵器)対応や戦闘外傷に必要な装備や医薬品を揃え、そのための技術を向上してもらいたいものです。当たり前のことですが節約よりも人命です。

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰

写真出典元:国立感染症研究所(https://www.niid.go.jp/niid/ja/usage-contract.html

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