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zoom RSS 物に囲まれても幸せになれない理由 〜世界でいちばん質素なムヒカ前大統領夫人が教えてくれたこと〜

<<   作成日時 : 2017/10/12 18:54   >>

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「貧乏な人とは、少ししか物をもっていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」
ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領は2012年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連の「持続可能な開発会議(Rio+20)」のスピーチで「世界で最も貧しい大統領」として世界的に有名になりました。
そんなムヒカ前大統領の生活を長年支え、共に「持たない暮らし」を実践する妻ルシア・トポランスキーさんに有川真由美さんが取材しました。
テーマは「幸せに生きるために必要なもの」。
その取材をまとめた『質素であることは、自由であること』(幻冬舎より発売中)より
物に囲まれても幸せになれない理由について紹介します。

「もっと、もっと」が人を不自由にする
 インタビューに先だって、私はルシアさん夫婦が住む地域にも行ってみた。
そこは、一帯にブドウや野菜の畑が広がる緑豊かな農村地帯で、こんもりと大きな木が茂っているところに、その家はあった。リビングと寝室とキッチンしかないというちいさな古い平屋で、まわりに点在している農家のほうが立派なほど。警備員二人が入口に常駐しているものの、大統領だった人が住んでいるとは到底思えない家だった。

 近所の雑貨店に寄ると、人のよさそうな店主が、「世界中から、ペペを取材に来るよ。ほとんど会えないけどね」と教えてくれた。たしかに、店内には、ロシア、スペインなど世界中のメディアの名刺が置かれていた。
その店には長年、ムヒカさんがマテ茶などを買いに来ているという。ルシアさんも自分で買い物をして、料理の腕を振るう。同じ地域には、一緒に政治活動をしていた友人たちも暮らしているらしく、気の合う人びとがいることも、ルシアさんの安らぎになっているのだろう。
ルシアさんは、そんな心地いい生活を大切にしているから、不必要なものに目を向けることがない。働いて得た収入であっても気持ちよく寄付できるのだ。

 私たちは、“いまの自分”だけでは幸せになれないから、自分の外側に幸せを求めてしまう。キョロキョロと「自分を満たしてくれるもの」を探し続ける。
そんな心のクセがあるかぎり、「もっと、もっと」と消費を繰り返したり、まわりの人に、さまざまなことを期待し続けたりする。そして、「あれが手に入ったら……」「あの人が〜してくれたら……」、自分はもっと幸せになれるのにと、不自由な状態に陥ってしまう。なにかがなければ、幸せになれない不自由さだ。

 また、“いまの自分”に自信がないと、まわりを見回し、人と比べて自分の価値や、幸せのレベルを判断しようとする。
たとえば、「どんな家に住んでいるのか」「収入はどれくらいか」「学歴はどうか」「どんな彼氏(夫)なのか」「外見はどうか」とマウンティングをして、自分のほうが「上か下か」と一喜一憂する。これも自分の幸せを、他人に左右される不自由な状態だ。

 ルシアさんに感じるのは、「いまの自分でじゅうぶん」と自分を無条件に肯定して、自分の人生を心の底から愛する気持ちだ。

 そのままの自分を認められる人は強い。

 それは、これまでの人生によるところが大きいのかもしれないとも思う。
幼いころから、家族のじゅうぶんな愛情で満たされ、経済的にも満たされて育ってきた。若くして「困っている人を助けたい」との正義感から、ゲリラ活動をして刑務所に入ったルシアさんのことを、両親は受け入れてくれたという。
ルシアさんは、刑務所のなかで、満たされるどころか、とことん過酷な経験もしてきた。両極を経験しているから肝が据わっていて、いいことも、そうでないことも、明るいことも、暗いことも、同じように受け入れているように見える。
まるで天上から人生を眺めるように達観しているのかもしれない。「生きているだけで、人生はじゅうぶんすばらしい」と。

 私はふと仏教の祖である“釈迦”のことを思い出した。
王子として満たされた生活を送っていた釈迦は、老いた人、病気の人などを見て、「どうすれば、人生の苦しみを克服できるのか」と悩んで、自ら苦行に入る。そして、菩提樹の下で、「無常(変わりゆくこと)を受け入れて、すべてのものに対する執着を捨てることが唯一の道である」と悟りを開くのだ。

 もちろん、ルシアさんは悟りを開こうとも思っていなかっただろうが、結果的に、自然にそんな幸せの真理を悟った人のように思える。
私たちが「シンプル生活」「断捨離®」「ミニマム」など、幸せのために意識的にしようとしていることを、そんなキーワードなどなくても、ごく自然にやっているのだ。

 もし、愛情や経済に満たされてこなかった人が権力を握ったり、ファーストレディになったりしたら……と考える。きっと、まわりの人を「〜してちょうだい」と女王様のように振り回したり、高価なものを買って散財したりしていただろう。自分になにかしら劣等感のある人は、豪華な服や宝石で自分を着飾ろうとしたり、人と比べて勝ち負けを競ったりしてしまうはずだ。
逆に、贅沢しか知らない人がファーストレディになったら、一般の人びとの感覚とはかけ離れた言動をとってしまうだろう。

 ルシアさんは、たいへん特別な経歴ではあるが、たいへんバランスのとれた人でもある。とても似合う素敵な服を着ていて、国会で議長をしているときも、世界の要人に会うときも堂々としている。派手なブランドの服や、大きなジュエリーがなくても、ルシアさんのうつくしさを表現するには、それでじゅうぶんだ。むしろ、余計なものなどないほうが、ずっと品格を感じる。
品格というのは、なにかを足していくことで生まれるわけではない。「私はこのままでじゅうぶん」と心が満たされ、自分に誇りをもつ人に備わるオーラなのだ。


■有川 真由美
鹿児島県姶良市出身。台湾国立高雄第一科技大学大学院応用日本語学科修士課程修了。化粧品会社事務、塾講師、科学館コンパニオン、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリーカメラマン、新聞社、編集者などその数50の職業経験を生かして、自分らしく生きる方法を模索し、発表している。また、世界約40か国を旅し、旅エッセイやドキュメンタリーも手がける。著書に『遠回りがいちばん遠くまで行ける』『上機嫌で生きる』(小社)他多数。

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